APPROACH
行動につなげる。未来につながっていく。
企業情報
6月19日、政府から都道府県をまたぐ外出制限の緩和が発表されました。改めて、新型コロナによって何かしらの行動制限がかけられたUNDERコロナのフェーズから、個々人のリスク管理を前提とした制限のないWITHコロナへのフェーズに移行したかと思います。また、同日から企業に対する休業要請が事実上、全面的に解除され、多くの事業社がこれまで通りの経済活動の再開が可能となりました。
ただ一方で、働き方であったり、モノの選び方や買い方、さらに買うモノそのものの選択であったり、個人の社会、消費行動に多くの変化をもたらした新型コロナ。これまで通りのやり方では、これまで通りの事業収益を得ることが困難になりつつある環境下において、企業はどういった変化への対応が必要なのか。
alphabox共同代表の藤田の記事ではREC(Recovery, Evolution, Creation)という視点で、コロナ禍における企業の進むべきステップを解説しておりますが、今企業がそれらの必要な変化に取り組んでいくにあたっての考慮すべきポイントを今回は3つのRでお伝えしたいと思います。
外出制限環境下では、これまでリアルの場で行われることが当たり前になっていたことのデジタル化が進みました。飲み会から、買い物、授業、トレーニング、展示会、ライブ、さらには入社式まで。外出制限解除に伴い、一部はこれまで通りリアルの場に戻るものもあるかと思います。ただ、外出制限という不便の中でデジタル化の便益を得た生活者の多くにとって、当たり前と思っていた選択が、当たり前ではなくなったことは確かです。 弊社が4月30日に実施した調査*1からも、今回の外出制限をきっかけとしてデリバリーや動画をはじめとしたサブスクリプションサービスなど、デジタルサービスの利用者が増加した結果が出ていました。今後生活者の行動選択の中で、これまで当たり前にリアルの場で行われていた消費や利用の取捨選択が進むことは避けられないでしょう。 サービスのデジタル化に伴う、生活のデジタルシフトが進むことは何を意味するのか。それはまさにサービス選択の主導権がさらに生活者にシフトすることを意味しています。今まではスーパーやコンビニの棚にある商品の中から選ばざるを得なかった状態から、企業の規模、商品の売り上げの大小に関わらずありとあらゆる商品から選ぶことができる状態に、また、番組表という時間と局が制限された中での視聴から、YouTubeや有料動画配信サービスの中のありとあらゆるコンテンツから好きな時に好きなものを視聴できる状態になりました。まさに何を買うか、何を見るかといった選択の主導権のシフトが、新型コロナをきっかけに企業から生活者の手の中にさらに進んでいると言えるでしょう。 では、WITHコロナ環境下では、自社商品、サービスをデジタル化すれば、主導権を持つ生活者、顧客のニーズをつかむことができるのでしょうか。
顧客に支持される自社サービスのデジタル化のヒントになる事例があります。それは、外出制限下で「オンライン宿泊」サービスを開始し話題になった和歌山県那智勝浦にあるWhyKumano Hostel & Café Barです。 オンラインでの宿泊(すなわち宿泊場所は自宅)とはいえ有料サービスであるにも関わらず、4月6日から開催した51回全日満床という人気ぶり。その人気の秘密はどこにあるのか。もちろんリアルに体験することが大前提となっている「宿泊」と「オンライン」の相反する2つが組み合わさっている話題性もさることながら、その「オンライン宿泊」の中身にあると考えています。 自社サービスのデジタル化を考えた場合、和歌山県の那智勝浦という自然豊かな場所をVRなどでオンライン体験してもらうことが分かりやすいデジタル化かと思いますが、WhyKumano Hostel & Café Barの「オンライン宿泊」のコアは宿泊者同士のオンライン上での交流にあります。宿泊客が求めていた体験、すなわちホステルというリアルな場で楽しまれていた国内外の様々な宿泊客との交流をデジタル化したことが、顧客に支持される結果につながったのだと思いました。 WhyKumano Hostel & Café Barだけでなく、これまでリアルの場でのサービス提供を主軸にしていたアパレルや化粧品販売、不動産賃貸仲介など、様々な業界でサービスのデジタル化が進んでいます。それは単なる売りの場のデジタル化=ECではなく、顧客の求めている体験を踏まえた、オンライン上でのカウンセリングであったり、スタイルの提案であったり、リアルの良さを生かした、リアルとデジタルを融合させたサービスと言えるでしょう。今後、リアルとデジタルの境目がないミラーワールド化したサービス提供が、主導権を握る顧客とのつながりを作るアプローチではないでしょうか。
単身世帯比率が4割に迫ろうとしている日本社会。新型コロナの影響によって顕在化した孤独感。そして制限されたからこそ、改めて価値が再認識された人と人とのつながり。会えないから諦めるのではなく、今回の外出制限をきっかけに新たなデジタル上でのつながり方も出てきました。 これまでの、体験の一部を切り取ってSNSに共有し、そこにフォローやいいね!といった反応をするつながり方に加え、同じ時に同じ場で同じものを楽しむという体験そのものをデジタル上で共有する新しいつながり方も出てきています。Picableというスマホの画面や音声を共有するアプリや、5月2日に開始したLINEによるYouTubeなどを複数人で楽しめる新サービスなど、物理的な距離に関係なく、コミュニケーションを取りながら、同じコンテンツを同時に楽しめる体験、サービスが生まれ、若年層を中心に利用者が増えています*2。
新型コロナが影響を与えたのは、人と人のつながり方だけではありません。人と企業のつながり方にも同様に影響を与えました。応援消費という言葉も出てきましたが、不要不急の環境下でも成果を出している、売上を上げている企業は往々にして顧客とのつながり=ファンコミュニティを保有しています。クラフトビール大手のヤッホーブルーイングは5月下旬と6月上旬にこれまでリアルの場で行われていたファン同士の交流やビール作りの講義などのファン向けイベントを初めてオンラインで実施しました。2日間で、のべ約1万人のファンの集客に成功し、この環境下だからこそのデジタルを使ったStay homeの楽しみ方を提供していました。
生活者の意識や行動に多くの変化をもたらした新型コロナ。それは同時に企業にとって対応していかなければならない新たな課題が生まれたことを意味します。その課題への対応は自社固有の課題ではなく、業界全体に共通する課題であり、その課題解決への取り組みは企業の大小に関係なく、等しく対応を迫られている、すなわち同じスタートラインに立っていると言えるでしょう。 業界によって、その課題は様々です。しかし、その課題解決アプローチとして、デジタル化が一つのキーワードになることは業界問わず共通するものだと考えています。ただ、そのデジタル化とは既存サービス、商品をデジタル上で売ってみるというある特定の接点のデジタル化ではなく、顧客のニーズ、望む体験を理解し、買う前から、買った後までの一連の流れの中で、それら望む体験を提供するための仕組み・仕掛け、すなわちサービス全体のデジタル化です。新型コロナをきっかけに、リアルとデジタルを融合させたサービスによって顧客と新たなつながりを形成した企業が、業界順位を変えるような結果を手にするのではないでしょうか。
*1 ADKマーケティング・ソリューションズ 2020年4月30日実施調査 *2 AppAnnieでのアプリダウンロード数分析
alphabox
加藤裕樹 ADKと日本IBMの共同ユニットalphabox所属。「DXを通じて、CXを実現する。」というミッションのもと、金融企業からプロスポーツチームまで多様な業種において、マーケティング視点でのDXを支援。