コラム

【後編】未来グロースワークショップのリアル:住友重機械工業が描く未来の可能性

ブランドやサービスの未来成長シナリオを描く共創型ワークショップ

前編では未来グロースワークショップを開発したADKマーケティング・ソリューションズ(以下、ADK MS)の小塚・阿部、ディー・フォー・ディー・アール株式会社(以下、D4DR)の藤元氏・川上氏のインタビューをお届けしました。

ここからは実際に「未来グロースワークショップ」にご参加いただいた住友重機械工業株式会社(以下、住重)の上野氏・川上氏、そしてワークショップメンバーとして参加したADK MSプランナーの早川・川西も交え、当事者のリアルな声を伺います。

インタビュー回答者

住友重機械工業株式会社 
 新塑性加工開発SBU STAFプロジェクト
 プロジェクトマネージャー 上野紀条 氏
 主任技師 川上雅史 氏

ディー・フォー・ディー・アール株式会社
 代表取締役社長 藤元健太郎 氏
 シニアコンサルタント 川上泰央 氏

株式会社 ADK マーケティング・ソリューションズ
 EXクリエイティブ本部 NextGen局小塚ルーム 小塚仁篤、川西萌登
 EXデザイン本部 BXデザイン局 alphabox 阿部翔士朗、早川 侑良


Q:住重の上野様と川上様、本日はありがとうございます。まず御社が取り組まれている「STAFプロジェクト」について簡単にご説明をお願いします。

上野氏(住重): STAF(Steel Tube Air Forming*1の略)は、弊社の新事業開発として扱っている機種で、2012年からR&D調査を開始しました。当時はまだ社内でも「この技術は本当に面白いのか」「この技術はお客様にとって魅力的なのか」という問いからマーケティング調査を重ねていました。その結果、自動車メーカーから非常に高い評価を得ることができ、2014年から本格的な開発に着手したのです。
弊社では「世の中の変化が激しい中で我々の機種も進化し続けなければ退化してしまう」という考えがあり、新規事業探索活動には非常に重きを置いて取り組んでいます。そんな中でSTAFプロジェクトは自動車の骨格ボディを新しい構造へと革新する、という大きな目標を掲げ、2017年より戦略的ビジネスユニットとして活動を開始しました。主な顧客は自動車業界で、とりわけ加工メーカーのTier1*2サプライヤー企業が直接的なお客様になります。

*1 Steel Tube Air Forming:プレスとブローフォーミングを組み合わせた住友重機械工業独自の新しいパイプの熱間エアーブロー成形技術
*2 Tier1:自動車メーカーと直接取引を行い、車両の主要なコンポーネントを供給する企業

参考:STAF(Steel Tube Air Forming) | 住友重機械工業株式会社

川上氏(住重):私は技術者としての視点も踏まえ、STAFプロジェクトの現状について捕捉させていただきます。現在はSTAFの事業、設備、技術がもたらす新しい価値をお客様に理解していただき、STAFを導入したいと思っていただけるような取り組みを行っているのですが、STAFもちょうど本格的な開発から10年目を迎え、初号機が導入されるタイミングを迎えています。イノベーターの方々にその良さが徐々に理解され、我々の技術が市場に認められつつある状況で、私たちは多くの価値をSTAFは持っているという自信もあります。ただ同時に「将来どうなのか?」というお客様の問いかけに対しては明確にお応えしきれていない状況も感じており、技術の可能性をどう未来に繋げるか、という視点で次のステップを模索していました。

左から川上氏、上野氏(住友重機械工業)

Q:今回「未来グロースワークショップ」を実施するに至った背景や、どのような期待を寄せられていたか、お聞かせいただけますか?

上野氏(住重): まさに先ほど川上が申した通り、お客様からSTAFの将来の可能性について問われた際、そのビジョンが明確に描けていなかったことが私たちの悩みでした。また、その未来価値を創造するために、どれだけの労力や費用をかけるべきかという投資判断の悩みもありつつ、正直、社内での意見交換だけではこれ以上の広がりが期待できないと感じていました。
そんな中でADK MSからいただいたご提案は、Tier1企業や自動車メーカーといった多様な方々を巻き込むワークショップ型の未来価値創造の取り組みで、これまでにない視点が得られるのではないかという、まさに我々が求めていたものでした。加えて我々は機械メーカーとして、設備や商品の具体例を用いてお客様に提案することは得意です。しかし、より多くのお客様に我々の価値を知っていただくためには、未来の変化を踏まえた上で、我々のコンセプトがどのように響くのかというビジョンが非常に曖昧でした。だからこそ、私たちの頭の中だけの凝り固まった視点ではなく、様々な方にワークショップに参加いただくことで、より広い視野を持つことができると考え、この取り組みに踏み切ることにしたのです。

阿部(ADK MS):上野さんがおっしゃる課題は、ADK MSが未来グロースワークショップを通じて解決したかった課題そのものです。素晴らしい技術やアセットがありながらも、市場環境やステークホルダーが複雑化することで、自社だけでは未来を描ききれない、というケースは多いと思います。そこに対して、外部の多様な視点や専門性を取り入れることがブレークスルーを生む鍵、という共通認識のもとで会話できたと思っています

左から、川西、早川、阿部、小塚(ADK MS)

Q; ADK MSが今回、D4DRさんとご一緒することにした理由やプロセスを教えてください。そして今回のような複雑な状態をワークショップで解決していくことは、どのような点で有益だと考えていますか?

阿部(ADK MS):ご相談を頂きディスカッションをする中で、クライアントのその先にいるクライアント、さらにはその先のクライアントといった様々なステークホルダーが存在し、STAFの価値を捉える上での重要性が高いことが分かっていました。それぞれの事情や状況が異なるため、見ているものも異なります。そのなかで技術の未来を可視化しながら、各ステークホルダーの意見を引き出し、それらのイメージを組み合わせていく取り組みが大事です。またSTAFが自動車産業以外への適用可能性も持つことも考慮すると、広い未来をインプットした上で未来を描くこと、すなわち未来に対する専門家の存在が欠かせないと考え、未来市場に深い知見のあるD4DRさんとの座組を作りました。

モノの流れに伴う価値や認識、期待の流れ。これがワークショップの起点となった。

小塚(ADK MS):我々は通常、オリエンテーションをいただき、それをもとに問題解決を進めていきます。しかし、今回の課題は、阿部が言うように様々なステークホルダーが存在する複雑なものでした。そのため従来の広告会社のような提案型のアプローチでは、各種ステークホルダーの複雑な課題を把握しきれず、的外れな提案を何度も行ってしまうのではないかという懸念がありました。また、多様なステークホルダーにまたがった事業課題を正確に把握するためには、多くの情報を根掘り葉掘り伺わなければならず、難しさを感じていました。そのような状況下で、各種ステークホルダーの方々を巻き込んで「未来事業について一緒に考えていこう」という姿勢にシフトできた点が特によかったと思います。これは未来グロースワークショップの共同開発に至った直接的なきっかけでもあります。

藤元氏(D4DR):小塚さんの話に補足すると、ワークショップを通じて最も意識しているのは、アウトプットの成長性をどこまで描けるか、です。成長性を描くためには、より広く、俯瞰的に見ることが重要になります。単純なビジネスモデルからスタートしても、最終的にはさまざまなステークホルダーが関与し、複雑化していくものですから、初めからその複雑性を予見し、全体像をとらえることが求められます。今回対象となったSTAF技術は、日本の製造業エコシステムの中でしっかりとした価値を持ち、強みとなるために、エコシステム全体を俯瞰して議論できるフレームが必要です。我々のワークショップはその点を意識しているため、今回の座組は非常に良かったと思います。ステークホルダーの方々が実際に議論に参加していただけたことも、非常に有益でした。

Q:では実際のワークショップの内容をもう少し具体的に教えてください。またワークショップに参加された住重さんやADK MSメンバーからみて印象的だった点があれば聞かせてください。

川上氏(D4DR):今回のワークショップは、3つのステップを踏んで進めることを事前にADK MSさんとしっかり検討し、実施しました。まずは未来社会像を具体的に描く作業を行いました。そのあと参加者全員で、STAFを消費者が使用しているシーンを考案しました。この際、アイデアを「商品」「サービス」「空間」の3つの領域に整理することで、さまざまな社会像が明確になりました。最後に、目指したい新しい現実に向けて、2040年に向けたロードマップを作成、数年ごとに技術的な要素や法規制をイメージしながら、最終的な商品やサービスを描いてみました。このように3段階で進めることで、アウトプットがよりクリアになることを実感していただいたと思います。

3つのステップに合わせたフレームワーク設計。未来のアイデアを発散させたあと、
目指すべき未来の方向性を整理するまでのバックキャスト型のプロセスが設計されている。

上野氏(住重): ワークショップは実際に非常に楽しかったです!150枚の未来事象が書かれたカードから選び、自分の意見を限られた時間の中でまとめることは、かなりチャレンジングでした。しかし、当日皆さんとさまざまなディスカッションを行ったことで、潜在的に自分の中にある未来像を掘り起こすことができました。また、自動車やSTAF技術がどのように進化していくのかをリアルに考えることができ、とても面白かったです。
やはり不確実な未来に対して全く根拠のない発想では、なかなかアイデアが浮かびませんが、ご用意いただいたカードは非常に具体性やバラエティに富んでおり、それを見ながら「未来はこうなるのだろうな」と自然に発想することができました。

ワークショップの風景と、未来グロースカードのイメージ。
150枚の未来事象が書かれたカードなどを起点に、さまざまな未来像をバックキャスト視点で議論した。

小塚(ADK MS):自分自身も参加する中で、150枚のカードを通じて元々思い描いていた未来のイメージがより鮮明になりました。また、さまざまな未来像をテーブルに並べることで、「この未来は目指す方向に近い。逆にこちらはちょっと違う」といった未来像を相対化して、目指すべき方向性を具体化するプロセスを、各種ステークホルダーの方々と議論しながら共有イメージに落とし込んでいくことができ、とても創造的な時間でした。

上野氏(住重): ADK MSさんの色々な部署の方がディスカッションに参加いただいたことも非常に面白かったですね。我々やTier1企業や自動車メーカーだけでは発想できない、異なる角度で意見をしてくださったので、それを見て我々も殻を破ることもできました。

ワークショップ終了後、未来のグロースシナリオの方向性を整理したシートのイメージ。
さまざまな未来のアイデアから、目指すべき未来のシナリオを整理していく。

小塚(ADK MS):ありがとうございます、そう言っていただけると非常に嬉しいです。ADK MSからはバックキャストを得意とするクリエイターやコンサルタントに加えて、フォーキャストの未来予測を専門とするチームのストラテジックプランナーなどが支援させていただきました。バックキャストとフォーキャストの両方の視点を取り込みながら未来像を議論することで、目指すべき未来の方向性について短時間で密度の高い議論をすることができました。

通常の提案型アプローチだと、前提となる課題やゴールが共有できない中で何度も手探りの提案を繰り返す状態になりかねませんでした。しかし、今回ワークショップの場で皆さんと話しながら前提イメージをお互いに共有できたので、その後のクリエイティブ開発のプロセスにスムーズに移行することができました。

Q.ADK MSからは参加したメンバーには若手のコンサルタントやクリエイティブプランナーもいました。早川氏と川西氏は今回のワークショップでどんな気づきがありましたか?

早川(ADK MS): 今回、このようなワークショップに参加するのは初めてでしたが、さまざまなステークホルダーの皆さんと議論できたことがとても良かったと思いました。 STAF技術についての知識が深い参加者ほど、現状の課題や技術の延長から描く、フォーキャスティングの発想に縛られてしまう場面がありましたが、バックキャストという視点で考えることで、「どうやったらそれを実現できるのか?」という発想でアイデアの幅を広げられました。また、ワークショップ形式のため、業界で働く人の肌感覚をディスカッションの中で吸収しながら、アイデア発想につなげられたことも非常に有意義でした。

川西(ADK MS): 私も同感です。例えばSTAF技術を活用した未来の「動くトイレ」や「アイアンマン」のようなアイデアなど、通常ではなかなか出てこないユニークな発想がたくさん生まれたのはバックキャストの成果だと思います。現在はワークショップの結果を踏まえてクリエイティブ開発のプロセスに入っていますが、未来の話としてどれくらいの自由度をもってクリエイティブの企画に落としこんでいけるか、この技術はどういう未来が描けるのか、といった全体像をイメージしながら進めることができ、企画やコミュニケーション設計を考えやすかったです。

ワークショップをベースに展示会で発表した「STAF FUTURE NEWS」。
生成AIを活用して、STAF技術が普及した未来のモビリティ像を映像とグラフィックで表現した。

Q:本日はお時間をいただき、ありがとうございました。最後に、今回得られた学びを踏まえて各社で今後どのような未来を作っていきたいとお考えでしょうか?

上野氏(住重):今後、世の中がどう変わっていくかという視点が、製造業においては圧倒的に不足していると痛感しています。そうした中で、今回のワークショップで、我々のお客様であるTier1企業の方々や、その先のお客様である自動車メーカーの方々に参加いただき、それぞれの立場は異なるものの実は「思っていることは変わらない」という共通認識を持てたことは、非常に大きな自信になりました。このような場がないとなかなか発見できないことや、体験してみないと分からない部分も多いと思いますので、そのメリットを社内でも積極的に発信していきたいと考えています。

藤元氏(D4DR):やはり日本の製造業は、多くの未来に光る技術を持っています。それがこのようなフレームワークに乗ることで、さまざまな人の視点が加わり、可能性が大きく広がると感じています。ワークショップでは多様なステークホルダーに参加してもらいますが、私たちは最初の場づくりや発想のきっかけづくりをお手伝いし、ADK MSさんがコミュニケーションの力でそれを多くの人に届けることで、受け取った人たちから次のアイデアが生まれるというアイデアの連鎖が起きていくことを目指しています。今回の住重さんのケースを最初のステップとして、今後さまざまな取り組みを進めていければと思っています。

小塚(ADK MS): ADK MSとして2つのポイントがあります。1つ目は、私たちはマーケティング4Pのプロモーション領域に強みがありますが、BtoBビジネスの複雑な状況を踏まえた事業デザインや成長シナリオ構築を行う機会は多くないため、ワークショップを通じて事業成長に関する多様な視点を得ることができました。
2つ目は、私たちは生活者インサイトなどを起点とした現在の生活者とのコミュニケーション設計を普段行っていますが、未来の生活者インサイトの変化や未来市場予測については、まだまだ知見が足りない部分があります。そこに強みがあるD4DRさんと一緒にワークショップを行うことで、「未来を創る」というプロセスを深く共有したうえで事業デザインや成長シナリオを議論できたことは、非常に良かったと感じています。
今後とも住友重機械工業さんと一緒に、そして他の企業様とも未来をキーワードとしたプロジェクトを増やしていき、新しい未来の提供価値を共創していくお手伝いをしていきたいと思います。本日はありがとうございました!

前編:クライアントの未来を切り開く「未来グロースワークショップ」の全貌 ~ブランドやサービスの未来成長シナリオを描く共創型ワークショップ~

阿部 翔士朗        
EXデザイン本部 BXデザイン局
alphabox
デジタル接点開発やマーケティング領域での知見をもとに、体験設計をコアとした構想策定や価値開発、サービス開発など、事業成長に向けた課題解決のデザインを手掛ける

早川 侑良           
EXデザイン本部 BXデザイン局 alphabox
サイト利用前~利用後までの一連の体験設計や施策企画~実行、顧客データ分析の経験をもとにUX/CX設計を手掛ける。ユーザー視点とビジネス視点の両立を意識し、ブランドと顧客のより良い関係構築の支援に注力。

小塚 仁篤           
EXクリエイティブ本部 NextGen局 小塚ルーム
デジタルやテクノロジー分野での経験を武器に、未来志向のクリエイティブ開発やSFプロトタイピングを得意とする。主な仕事に、オリィ研究所「分身ロボットカフェDAWN ver.β」、日本科学未来館「Mirai can_!」、キリンホールディングス「エレキソルト」など。JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー2020メダリスト。

川西 萌登           
EXクリエイティブ本部 NextGen局 小塚ルーム

ワークショップデザインをバックグラウンドとして、クライアントとの価値共創型のプロジェクトを中心に映像から、組織開発、事業開発まで幅広いプランニングを手掛ける。2024年ヤングスパイクス日本代表。


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 EXデザイン本部 BXデザイン局 alphabox 阿部 、早川 
 EXクリエイティブ本部 NextGen局 小塚ルーム 小塚 、川西  
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 経営企画本部 PR・マーケティンググループ 伊藤/根岸 e-mail:mspr@adk.jp

 

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