コラム
【前篇】クライアントの未来を切り開く「未来グロースワークショップ」の全貌
ブランドやサービスの未来成長シナリオを描く共創型ワークショップ
2025.06.11
VUCAの時代に突入し、企業を取り巻く環境は一層複雑化・不透明化しています。こうした中で企業の持続的な成長のカギとなるのは、眼前の課題への対処だけでなく、未来の社会や顧客の変化を的確に捉える視点をもつこと、つまり「未来の提供価値」を自らの意思で柔軟に描くことです。
このような背景を踏まえ、ADKマーケティング・ソリューションズ(以下、ADK MS)では、ディー・フォー・ディー・アール株式会社(以下、D4DR)と共同で、クライアント企業と共にブランドやサービスの未来成長シナリオを描くソリューション「未来グロースワークショップ」の提供開始を発表しました。
本記事では、未来グロースワークショップを開発したADK MSの小塚・阿部、D4DRの藤元氏・川上氏にインタビュー。その取り組みやアプローチのポイントを伺いました。
【インタビュー回答者】
ディー・フォー・ディー・アール株式会社(D4DR inc.)
代表取締役社長 藤元健太郎 氏
シニアコンサルタント 川上泰央 氏
株式会社 ADK マーケティング・ソリューションズ
EXクリエイティブ本部 NextGen局小塚ルーム 小塚仁篤
EXデザイン本部 BXデザイン局 alphabox 阿部翔士朗
Q: 本日はお集まりいただきありがとうございます。はじめに、会社やご自身が取り組んでいる領域について教えてください。そして、この「未来グロースワークショップ」がどのような背景から生まれたのか、その開発のきっかけや、両社の役割についてお聞かせいただけますか?
小塚(ADK MS):普段はクリエイティブディレクターとして、未来志向のクリエイティブ開発やプロトタイピングに携わっています。また日本IBMとADK MSで協業するCXコンサルティングユニット「alphabox」に兼務所属しており、クリエイターの立場からCXデザイン領域にも取り組んでいます。
近年、コミュニケーション課題の解決に留まらず、クライアントの事業成長シナリオを描くという案件が増えています。この状況を踏まえて、コンサルティング×クリエイティブの視点で「未来の提供価値」を共創するフレームワーク「未来事業クリエイティブ」を昨年開発して、未来に向けた事業成長シナリオづくりと事業デザインの支援を行ってきました。このフレームワークは、昨年リリースした「BRAND BOOST METHOD」の一部として、事業やブランドの成長を加速(ブースト)していく戦略メソッドのひとつになっています。そして、ADKグループ全体としても「ファングロースパートナー」を事業ビジョンに掲げて、事業やブランドの成長支援に力を入れている状況です。
「Brand Boost Method」は、企業の経営、事業、ブランドが抱える課題に対し、コンサルティング視点で突破の糸口となる
新しい鉱脈を見つけながらクリエイティビティで突破口を開き、ビジネスを一気に成長軌道へとブーストさせる戦略メソッド。
阿部(ADK MS):私はalphaboxのコンサルタントとして課題設計から、戦略策定、そして体験デザインの具現化まで支援しています。小塚とともに「未来事業クリエイティブ」の推進をしているのですが、プロジェクトを進める中で長期的未来洞察の重要性を実感し、深い知見をお持ちのD4DRさんにお声がけしてご一緒する体制を構築しました。
藤元氏(D4DR):D4DRは「ありたい未来を描く」をコンセプトにしたコンサルティング会社で、新規事業や長期戦略を一緒に描くことと、それを担う人材の育成・開発・組織開発の支援を強みとしている点が特徴です。今回、ADK MSさんから未来視点の専門家としてお声がけいただき、独自のナレッジや知見を提供し一緒にワークショップの開発を行いました。
川上氏(D4DR):弊社では様々なサービスを提供していますが「アセットを活用して新しい事業を創発する」という大手企業のニーズに応えた新規事業開発ワークショップもそのうちの1つです。未来シナリオやコンセプトを活用してクライアント様のイノベーション創出を支援させて頂く取組みで、特に10〜20年後の未来をバックキャスティングで描き、イノベーション創出を支援することが特徴です。
Q:さっそくですが、今回開発された未来グロースワークショップについて教えてください。
小塚(ADK MS):未来グロースワークショップは、「バックキャスト」というアプローチで事業やブランドの未来の成長シナリオを共創するワークショップです。将来の事業の方向性が不明瞭である、未来を見据えた新規事業の立ち上げに課題がある、事業アイデアから未来の成長シナリオをうまく描けないなどの事業課題に対して、ワークショップ形式の議論を通じて短時間で突破口を見出すための共創プロセスです。
生活者の気持ちや社会の動きに精通したADK MSのマーケターやクリエイターと、未来の市場や技術の動向に詳しいD4DRのコンサルタントが、各々の知見を活かすことで、未来における提供価値の発掘と、事業の成長シナリオの磨き込みに伴走します。
Q:特に重視している「バックキャスト」というアプローチはどんなときに有効なのでしょう?重要性やポイントも教えてください。
藤元氏(D4DR):現在の時代環境は先行きが不透明で、未来を正確に予測することは困難です。だからこそ、「こうありたい」「こういう未来をつくりたい」といった自分たちの意志(WILL)を明確に描くことが重要だと我々は考えています。ただ従来のフォーキャストだと、与えられた制度や制約、社会課題が前提になってしまうので、どうしても発想の視野が狭くなりがちです。そこで様々な前提を取り払い、「どうすれば人々が幸せになれるのか」「どのようなビジネスが面白いのか」といった本質的な未来像を描き、その実現のために“今”をどう変えるべきかを考える「バックキャスト」の思考が有効なのです。
阿部(ADK MS):クライアントの多くは新たな成長軸を求めていますが、フォーキャストでは藤元さんがおっしゃるように、現状の延長線上に留まってしまうケースがあります。どちらが良い悪いということでないですが、未来の可能性をより広げて考える「バックキャスト」の思考を持ち合わせることも、私たちがクライアントの10年後や20年後の事業成長を本質的に支援するために重要な視点だと考えています。
ちなみに弊社では、フォーキャスト視点を活用した未来予測の取り組みも進んでおり、「2030年未来予測レポート」なども作成しています。クライアント課題によっては、フォーキャストの未来予測を扱う専門チームと共同で、現在と未来の2つの視点から事業成長シナリオを導き出すワークショップやコンサルティングを提供することもあります。
フォーキャスティングとバックキャスティングのアプローチの違い
★以下コラム記事では、フォーキャスティングを活用した未来予測の取り組みもご紹介しています。
2030年の未来は“多種交錯社会”!? | ADKマーケティング・ソリューションズ
川上氏(D4DR):「バックキャスト」では、まさに10年後、20年後、あるいはそれ以上先の「ありたい未来」を思いっきり描くことに注力します。企業がバックキャストで未来を考えようとすると、どうしても個の意志が薄れてしまうことも多いのですが、新しい市場や価値を創造していくためには、まず自分自身のWILL(意志)を再認識し、そこから発想をスタートさせることが重要になります。その上で、会社のコアアセットや目指す方向性と重ね合わせて行き来することで、少しずつ未来を手繰り寄せアイデアを実現可能なものへと近づけていくことができるアプローチです。
Q: 広告会社ではクライアントから事前にいただいた与件に対して提案を行う形が一般的ですが、「未来を共に創る」ワークショップ形式はとても新しい取り組みでした。なぜワークショップという形式をとっているのでしょうか?
藤元氏(D4DR): 私たちは、クライアント自身が「自分ごと」として物事に気づき、行動変容を起こし、熱量を持って前に進むプロセスを支援したいと考えています。コンサルティング会社として、コーチングやファシリテーションがその重要な役割であるため、ワークショップを通して多くの視点や問いを投げかけることで、クライアントにとっての“気づきのきっかけ”となるようにこの形式を採用しています。
小塚(ADK MS):「共通認識の形成」と「内発的なモチベーションの喚起」も良い点だと思います。多様な立場の人々が一同に会し、同じ未来を見据えて語り合う場を「体験」することで、テキストだけでは伝わらない深い理解や共感が生まれます。事業を取り巻く課題が複雑化している昨今では特に、このプロセスが事業推進の力となり、具体的なアクションへと繋がる場面も多々あります。
Q:最後に、このワークショップの具体的な流れや、ここでしか得られない効果について教えて頂けますか?
川上氏(D4DR):まず「10年後、20年後の未来はこうありたい」という目標を、参加者の皆様に思いっきり描いていただくことから始めます。D4DRが独自に持つ15の「未来シナリオ仮説」を読み解きながら、未来の社会や生活者像を具体的にイメージし、皆様の「妄想力」を最大限に引き出していきます。これは単なる知識のインプットではなく、未来を「自分ごと」として深く思考する体験です。 その後、その「描いた未来」から逆算して「今、何をすべきか」というバックキャスト思考へと移ります。具体的なアイデアを創出するためには、150の「未来コンセプトシナリオ」を活用します。ご自身の興味関心のある未来事象を選んでいただき、それを起点に全く新しい事業の種を見つけていく流れです。はじめは未来を考えることに慣れていないと仰る方もいるのですが、インプットした情報をワークシートでアウトプットするプロセスをワークショップ内で積み重ねることで、少しずつ未来を描けるようになっていくように設計しています。
藤元氏(D4DR):一般的なコンサルティング会社は、最初から納得感のあるロジックを提示する傾向がありますが、私たちはそれよりも「面白い!やってみたい!」と思ってもらうことのほうが重要だと考えています。クライアントがまず情熱を持ち、やりたいと思った後に、「どうやって社内で実現するか」という理屈は後からついてくるものだと思っています。
その“ワクワクするエネルギー”を引き出し、高めていくこと。そして、そのエネルギーの順位やエントロピー(熱量)を上げていくこと。それが出来るようなプロセス重視のコンサルティングを実施しています。
左から藤元氏、川上氏(D4DR)
阿部(ADK MS):実際にクライアントと共創に取り組んだケースでも、多様なステークホルダーが一堂に会するかたちでワークショップを実施しました。1対1の関係性ではなく、複数の企業が集合体として1つの目的に向かって意見を交わしていく──こうした体験型のアプローチは、従来の広告会社が提供してきた具体的アウトプットを前提としたスタイルとは異なるものですが、”ワクワクするエネルギー”によって各テーブルに一体感が生まれていく様子もあったと思います。
次回の記事では、ワークショップをご活用いただいた住友重機械工業株式会社様を交えたリアルな声をお届けします。
後編:未来グロースワークショップのリアル:住友重機械工業が描く未来の可能性 ~ブランドやサービスの未来成長シナリオを描く共創型ワークショップ~
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阿部 翔士朗 |
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小塚 仁篤 |
【本件に関するお問い合わせ】
ADKマーケティング・ソリューションズ
EXデザイン本部 BXデザイン局 alphabox 阿部 、早川
EXクリエイティブ本部 NextGen局 小塚ルーム 小塚 、川西
ADKホールディングス
経営企画本部 PR・マーケティンググループ 伊藤/根岸 e-mail:mspr@adk.jp