コラム

ADKグループ入社式での新体験!「TOKYO NODE LAB」ボリュメトリックビデオ技術活用の舞台裏

新入社員の入社式といえば、ちょっと緊張して、きちんとした雰囲気で……そんなイメージを持っている人も多いかもしれません。
でも、ADKグループが2025年度に行った入社式は、ちょっと違いました。

なんと、CEOが巨大化して登場!?
しかも、スマホをかざせば3Dで飛び出してきて、1人ひとりに歓迎メッセージを届けてくれるAR名刺まで。

この大胆な演出の裏には、最新のボリュメトリックビデオ技術と、都市を舞台にした新しい体験を生み出す施設「TOKYO NODE LAB」の存在がありました。

今回は、このユニークな取り組みがどうやって生まれたのか、そして関わった人たちがどんな想いで形にしていったのかを、TOKYO NODE LAB でADKマーケティング・ソリューションズ EXクリエイティブ本部 小塚 仁篤原口 布美、森ビル 新領域事業部 TOKYONODE運営室 石澤 滝太郎様、日本IBM コンサルティング事業本部 中務 貴之様に伺いました。

―まずはADKグループの入社式での取り組みについて教えてください。

ADKマーケティング・ソリューションズ EXクリエイティブ本部 小塚 仁篤(以下「小塚」):
ADKグループでは、2025年度の入社式において、事業ビジョン「ファングロースパートナー」を体現する企画として、「GROWTH CEO」という取り組みを実施しました。

「ファングロースパートナー」とは、ファンを生み出し、ファンとの絆を深め、共に新たな価値を創出していくというビジョンです。今回はその象徴的な表現として、ADKグループCEOの大山が“巨大化”=“GROWTH”して新入社員を出迎えるというコンセプトで、2つのコンテンツを制作しました。

1つ目のコンテンツは、TOKYO NODE LABのボリュメトリックビデオスタジオで撮影したCEO・大山の3D映像を活用し、虎ノ門ヒルズ 森タワーサイズに巨大化したCEOが新入社員を歓迎するムービーです。

もうひとつが、AR名刺です。配布された名刺に印刷されたARマーカーをスマートフォンで読み取ると、ボリュメトリックビデオ技術で撮影されたCEOがスマホ画面に登場し、1人1人に向けて歓迎のメッセージを語りかけるという仕掛けになっています。

―TOKYO NODE LABの最先端ボリュメトリックビデオ技術、すごいですね。詳しく教えて頂けますか。

森ビル 新領域事業部 TOKYONODE運営室 石澤 滝太郎 氏(以下「石澤氏」):
まずはここ、虎ノ門ヒルズの情報発信拠点「TOKYO NODE」の位置づけについてご説明します。
私たち森ビルは、常に「文化を大切にした街づくり」を行ってきました。今回、虎ノ門ヒルズにおけるそれがTOKYO NODEです。
虎ノ門はビジネス街という性格を持っていますが、私たちはそこに「ビジネス×クリエイティブ」や「ビジネス×アート」といった掛け合わせで、地元企業や森ビル自身による情報発信の拠点として機能させていきたいと考えています。
その中核を担う研究開発チームが、TOKYO NODE LABです。

このラボにはいくつかの機能がありますが、そのひとつがボリュメトリックビデオ技術です。スタジオには57台のカメラが360度配置されており、人物や動作をリアルタイムで3Dデータ(いわば立体的なパラパラ漫画のような映像)として撮影・記録することができます。

この技術を活用して、新たな都市体験の創出を目指しています。このスタジオは、そうした未来の都市体験を具現化するための場であり、発信拠点でもあります。

―これまでどのような活用をされてきたのでしょうか?

石澤氏:
これまでは展覧会などで、さまざまなIPホルダーやアーティスト、アニメコンテンツと協業し、原画やライブではなかなか見ることを出来ないような体験を本スタジオのボリュメトリックビデオ技術を使って3D化することで、スマートフォンなどで立体的に鑑賞できるようにしてきました。

今回の取り組みは、BtoB領域で本格的にこの技術を活用いただいた初めてのケースとなります。この分野でのトライアルは、私たちにとっても非常に有意義な機会となりました。

小塚:
私自身も実際に入社式に参加し、新入社員に名刺を配るなどの場面に立ち会いましたが、彼らがこの体験をとても楽しんでくれていたのが印象的でした。
特に、自由な発想でアイデアを考え、それにテクノロジーを組み合わせて体験を創り出すという一連のプロセスが、新入社員にしっかりと刺さっていたと感じています。
こうした体験が、これからの発想力や創造性にポジティブな影響を与えてくれることを期待しています。


入社式当日の様子

―特別ムービー「GROWTH-CEO WELCOME GROWTH MESSAGE」では、ADKが新しく定めた事業ビジョン「ファングロースパートナー」を表現されたとのことですが、具体的にどのように取り入れたのでしょうか?

小塚:
事業ビジョン「ファングロースパートナー」では、ファンを生み出し、ファンとの絆を深めファンと共に新しい価値を生み出すことで、ビジネスの持続的成長に貢献し続けることを目指しています。この“グロース”というのは単なる売上の拡大という意味ではなく、人とのつながりをベースに価値を成長させていくことだと捉えています。

今回の入社式にあたっては、人事とも一緒に「どうすればADKらしい歓迎ができるか」を議論しました。その中で、「説明よりも体験を」「新しいこと、ワクワクすることを通して期待感を高めたい」という考えから、あえて思い切ったアイデアにチャレンジしました。

しっかりと絵コンテを作成し、演出としての“変身ポーズ”なども練り込み、複数のステップを経て実現に至りました。テクノロジーとクリエイティブを融合させた新しい体験を通して、入社式という場自体を、ADKの価値観を体感してもらう機会として活用できたのは、大きな成果だったと感じています。

―今回TOKYO NODE LABで撮影することになったきっかけなどありますか?

小塚:
ADKと日本IBMでは2019年から「alphabox(アルファボックス)」として企業のカスタマーエクスペリエンスの向上および変革を目的としたコンサルティング・サービスを共同で行っています。そのalphabox経由でIBMと繋がり、そのIBMがTOKYO NODE LABに参画されているということから、今回の機会に繋がりました。

―IBMはどのような技術で参画されているのでしょうか。

日本IBM コンサルティング事業本部 中務 貴之 氏(以下「中務氏」):
IBMとしては当時、クリエイティブやデジタルマーケティング領域の強化が必要だと感じていた時期がありました。ちょうどそのタイミングで協業が始まりました。それ以来、デジタルマーケティングをはじめ、さまざまな取り組みをご一緒させていただいています。

一方で、ボリュメトリックビデオ技術については、キヤノンさんと共同で取り組んでおり、IBMとしても非常に注力している分野です。この技術の裏側には、我々の「IBM Powerサーバー」が活用されており、例えば、映像がわずか3秒で表示されるような体験の実現には、このサーバーの性能が不可欠となっています。大山社長にも実際に体験していただいたかと思います。

こうした技術的な基盤を活かしながら、2021年頃からさまざまな企画を進めてきました。キヤノンさんとのコラボレーションを通じて試行錯誤を繰り返しながら、IBMの様々な部門が連携して現在の形に至ったという点では、非常に感慨深いものがあります。

虎ノ門のスタジオは、現在、森ビルさん・キヤノンさんとの共同での取り組みとなっており、そうした座組みの中で、我々もプロモーションをはじめ、さまざまな施策を展開しています。ちょうど一昨年にはADKさんもご見学もいただき、そこから「何か一緒にできないか」という話が始まり、今に至るという流れです。

加えて、我々IBMも去年虎ノ門に本社を移転しまして、ADKさんも虎ノ門に本社も構えていることもあり、実は全部が虎ノ門にあるっていうのが巡り合わせかなと思います。

石澤氏:
そうですね。私たち森ビルは総合デベロッパーです。ですので、「なぜデベロッパーがスタジオを持っているの?」と意外に思われるかもしれません。
ただ、私たちはこのボリュメトリックビデオ技術を活用して、都市空間の新しい体験を創出したいと考えています。3Dデータのスキャン技術、これを将来的にはVRやAR、さらにその先の技術、例えばヘッドマウントディスプレイがサングラスのように一般化する世界を見据えています。そうなれば、都市空間の中にさまざまな情報が重ねられ、これまでにない空間体験が生まれると期待しています。そういったロングスパンのビジョンを持って取り組んでいるのです。

その中で、IBMさんにも参画いただきました。デベロッパーは、テナントの皆さまとこのようなかたちの密なリレーションを築く機会は少ないので、今回の取り組みは特にありがたかったです。もちろん、賃貸主・テナントという関係性は日常的にありますが、「一緒にコンテンツを作っていく」「共に新たな事業の可能性を模索する」といった形でご一緒する機会は、あまり多くありませんでした。
今回のように、ある種プロトタイピングに近い形でご一緒できたことは、非常に貴重でおもしろい経験でした。現場にもいい意味での緊張感があり、一緒にものづくりを進めるプロセスそのものが非常に刺激的だったと感じています。

小塚:
僕たちも非常に楽しかったです。せっかくご近所というか同じ場所にいるので、こういうシナジーが生まれていくみたいなところのきっかけとしてもすごく良かったです。

―実際の撮影のときの様子も教えて頂けますか。

ADKマーケティング・ソリューションズ EXクリエイティブ本部 原口 布美(以下「原口」):
今回の撮影で特に印象に残っているのは、360度の映像ならではの「アングルを決める」という感覚です。通常の撮影とは異なり、撮る前にしっかり構成を考える必要があると思っていましたが、現場での柔軟な対応のおかげで、自然な流れで撮影を進めることができました。


小塚:
あとは通常の映像制作では、カメラ1台前提でカットを決めてしまいがちですが、今回は撮影後にもアングルを自由に変更できるため、現場での判断に柔軟に対応できたのが大きなメリットでしたね。
リハーサルのように現場で試してみて、社長がノッてきたらそのまま別カットも撮影し、後から編集で最適なものを選ぶことができたのは、今までにない自由度の高さでした。

原口:
360度という特性を活かして、冒頭のドローン的な演出など、没入感のある演出がとても効果的で、今後はその特性を前提とした絵コンテ作りもできると感じました。

コンテの描き方も従来とは異なり、実際の空間で試してから最適な流れを決めていくというアプローチは新鮮でした。ボリュメトリックビデオ撮影による制作体験を通じて、私たち自身も新たな発見が多く、次につながる柔軟な発想を得られたと思います。

また、映像と3Dデータを同時に取得する「ワンオブジェクト・ツーアウトプット」という考え方も非常に新鮮でした。一度撮影した3Dデータを映像にもARにも活用できるという拡張性の高さは、今後のコンテンツ制作において非常に可能性を感じる要素です。

また、すぐにプレビューで完成イメージを確認できるというのも非常に良くて、自分の演技を見ながら、「もっとこうしたい」といったアイデアが、大山社長ご本人から自然と出てきていて、それがとても印象的でした。通常の撮影ではなかなかそういうことは起きにくいのですが、今回はモニターを見ながらその場で一緒に議論し、「もう少しこうしてみようか」と工夫を加えていくことができる、まさにPDCAがスピーディに回る現場だったと思います。

―今後の展望を教えてください。

小塚:
今後もこういった新しいテクノロジーを取り入れた顧客体験デザインに積極的に取り組み、実例をどんどん増やしていきたいと考えています。私たちは基本的にクライアントワークが中心なので、クライアントからの相談があるたびに、その都度考え、座組を組み、問い合わせをして……という流れになると、どうしても対応に時間がかかってしまうことがあります。そんな中で、TOKYO NODE LABさんのように、常に研究開発が行われていて、最新の技術情報に触れられる場所がご近所にあるというのは、本当にありがたいことだと思っています。

そうした環境を活かして、最先端の事例やユニークな使い方を模索しながら、テクノロジーが日常に溶け込んだ時の社会実装までを見据えて、より面白く、価値のある仕事を生み出していけたらと考えています。

石澤氏:
森ビルは、「都市を創り、都市を育む」をテーマに事業を行っています。今回のような取り組みを通して、都市機能をどのように拡張し、育んでいけるのか、考えを深めていきたいと考えています。
TOKYO NODEでは、これまでも展覧会をはじめとしたさまざまなコンテンツを発信してきました。
今後は「箱」の中、つまり施設の内部にとどまらず、テクノロジーを活用して、コンテンツが街の空間、都市全体ににじみ出していくような展開ができるのではないかと考えています。これは、今後の大きなチャンスになるはずです。

TOKYO NODE LABや、虎ノ門ヒルズに入居している企業の皆さんと一緒に取り組んでいくことで、テクノロジーが“新しい当たり前”として都市に根付いていく。
そんな未来を描きながら、ビジネスとしても可能性がどんどん広がっていくような取り組みにつなげていけたら、とても嬉しいです。

中務氏:
やはり「テクノロジーが当たり前になる」ということが重要なテーマだと考えています。テクノロジーをどんどん“民主化”し、大衆化していくという方向性は、まさに我々の目指すところでもあります。

XRに関して言えば、すでにテクノロジーの“種”はかなり出揃ってきています。そこから先、どうやってそれを安く・早く・簡単に使えるかというフェーズに入っていて、まさに今回の取り組みでは、ARを簡易的に使っていただくことが、その一歩につながったのではないかと思っています。

我々としては、こうした技術を誰でも使いやすくすることで、結果的に事業の裾野も広がっていくと考えています。そういった意味でも、ぜひADKさんにはこのテクノロジーを活用していただきたいですし、加えて、都市体験ににじみ出していくような使い方――テクノロジーが都市空間と融合するようなプロジェクトにも、引き続き取り組んでいきたいと思っています。

プロフィール

小塚 仁篤
ADKマーケティング・ソリューションズ
EXクリエイティブ本部/SCEHMA
クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト

デジタルやテクノロジー分野での経験を武器に、未来志向のクリエイティブ開発やSFプロトタイピングを得意とする。主な仕事に、障害者の社会参画をテーマにした「分身ロボットカフェDAWN ver.β」(オリィ研究所)、未来ミュージアムを”未来をつくる実験場”に進化させるスローガン「Mirai can_!」(日本科学未来館)、微弱な電気のチカラで減塩食の塩味やうま味を引き出していく食器型デバイス「エレキソルト」(キリンホールディングス)など。 Cannes Lions、CES Innovation Awards、Prix Ars Electronica、D&AD、SPIKES ASIA、ADFEST、MADSTARS、ACC、メディア芸術祭、グッドデザイン賞ほか受賞歴多数。JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー2020メダリスト。
原口 布美
ADKマーケティング・ソリューションズ
EXクリエイティブ本部/ SCRUM
プランナー

制作会社にて、インタラクティブコンテンツやスマートフォンアプリのディレクターを経験。2019年ADK入社 PR、キャンペーン、デジタルコンテンツを主に担当。得意分野は、SNSでシェアされる企画とデジタルコンテンツの制作。
石澤 滝太郎 氏
森ビル株式会社
新領域事業部 TOKYONODE運営室/TOKYONODELAB責任者

虎ノ門を拠点に、都市の磁力を生む新たな体験をデザイン。
森ビルで培った、東京都心と地方都市双方の事業企画・マネジメント経験をベースに、都市とコンテンツの共鳴を探求。ビジネス・クリエイティブ・アートが交差する領域で、次世代の都市体験を創造する挑戦を続けている。
中務 貴之 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部 シニア・マネージング・コンサルタント

2013年日本IBM入社、システム導入・保守やアナリティクスを経て戦略コンサルティンググループに所属。これまでに100以上のお客様プロジェクトをリード。IBMの得意領域である最先端テクノロジーを活用した新規事業構築から企業全体のデジタルトランスフォーメーションまで包括的に支援。
TOKYO NODE LABではボリュメトリック技術を活用した企画・プロデュースを数多くのお客様と推進中。
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