コラム
日本の未来を映す東北から学ぶ、SDGs自分ごと化のヒントとは。抽象から具体へ。理念から行動へ
『東北の学生のSDGsに関する意識結果』メディア発表会レポート
2025.07.31
ADKマーケティング・ソリューションズは、東北芸術工科大学イノベーション&コミュニケーション研究所と共同で、同大学の学生を対象に「ADK生活者総合調査2024」の調査項目からSDGsに関する意識調査を実施し、関東および関西の大学・大学院生との比較結果を発表しました。
7月11日には東北芸術工科大学にてメディア発表会が開かれ、今回の調査結果を踏まえた東北の未来像や、調査結果の背景にある学生たちの意識について発表が行われました。
本発表会には、ADKマーケティング・ソリューションズからEXデザイン本部の有泉昌と、マーケティングインテリジェンス本部の中野忠夫が出席。その様子をレポートします。
「SDGsへの意識は高いが、実践には障壁がある」という構造
ADKマーケティング・ソリューションズ
マーケティングインテリジェンス本部 プランニング・ディレクター 中野 忠夫:
当社では2008年より関東・関西地区の男女15-79歳10,000名以上を対象としたオリジナル調査「ADK生活者総合調査」を毎年行っております。本調査では、意識/価値観・消費行動・メディア接触などの多岐にわたる項目を、同一のサンプルに聴取したシングルソースデータとなっており、生活者の意識・行動からメディア接触まで一貫した分析が可能です。
今回は、東北芸術工科大学に在籍する学生332名を対象に、ADK生活者総合調査2024の調査項目よりSDGsに関する意識調査を実施し、関東611名/関西285名の大学、大学院生と比較しました。結果、東北の学生は、東日本大震災を経験した世代が多く在住する地域であり、「健康」「福祉」「地域の持続可能性」といったテーマに対して特有の視点と共感が見られることが分かりました。さらに、人口減少や高齢化といった現在直面している地域課題の当事者であることもあり、都市部とは異なる意識傾向や行動特性を明らかにすることができました。
<レポートサマリー>
- 東北の学生の「SDGs」のワード認知率は97.9%で100%に迫る勢い。
- SDGs積極企業への就職意向についても東北の学生が最も高い結果に。東北の学生のSDGsに積極的な企業の利用意向は59.3%と高い一方で、自分自身が行動することには消極的というギャップが存在。
- SDGs実現に向けた行動喚起や、商品購入をためらう原因のトップ3は、3地域学生共に「商品・サービスの価格が高い」「手間や時間がかかり面倒」「何をしたらよいかわからない」。
- 共感するSDGs目標にも地域差が。関東関西は「貧困をなくそう」、東北は「すべての人に健康と福祉を」に共感する比率が高い。
調査結果に関する詳細は、ニュースリリースをご覧ください。
ADKマーケティング・ソリューションズ、東北芸術工科大学と共同で『東北の学生のSDGsに関する意識結果』を発表
https://www.adkms.jp/news/20250620-2/
東北の学生の「パラドクス」
東北芸術工科大学
イノベーション&コミュニケーション研究所副所長 兼 デザイン工学部 教授 緑川 岳志氏:
今回の調査で、東北の学生がSDGsに対して高い関心と貢献意欲を持つ一方で、日々の個人的な行動には結びついていないという、一見矛盾した構造が明らかとなりました。この構造を「パラドクス」と呼ぶこととしました。
先日実施した調査をもとに、東北の学生の特徴を2つのポイントに絞ってお伝えします。
1. 震災を原体験として生きる世代
現在の東北の大学生、特に20代前半の世代は、小学生前後で東日本大震災を経験しています。その影響は今も色濃く残っています。
都市部ではSDGsが世界平和やウェルネスという抽象的なイメージで語られることが多いかもしれません。しかし東北の学生にとって、SDGsとは日常そのもの。震災で一度失われたインフラをどう取り戻し、守り、持続可能にするか。
「自治体のインフラは大丈夫なのか」「この企業は本当に地域に貢献しているのか」そういった問いを、無意識のうちに常に抱えながら育ってきた世代なのです。
つまり、彼らにはインフラや社会保障への不安が背景にあり、期待感よりも慎重さが強い傾向があります。
2. 人口減少と向き合うリアル
もうひとつの特徴は、人口減少の現実を間近に感じていることです。山形県は今年5月に人口100万人を割りました。彼らにとって人口減少は未来の教科書の話ではなく、今、目の前で起こっている問題です。
労働力が足りなくなって、私たちの生活はどうなるのか。そんな危機感を抱えながら学んでいるのが今の学生たちです。特に東北の学生は、この地域で本当に持続可能な暮らしができるのか、どの企業なら実現できるのかを真剣に探っています。
東北企業に求められる3つのポイント
こうした背景を踏まえ、東北の企業が今後求められるポイントを3つ提示します。
① 地域エコシステム活用
地域資源を活かし、価格面や物流面で課題解決を図ること。
例えば、SDGs関連商品は価格や手間、流通の問題で手に入らないことが多いですが、地域内でリユースや流通改革を行うことで、負担を軽減できる可能性があります。
② わかりやすい還元の物語を示すこと
「地球のために」ではなく、「この町を支えるために」「山形市を元気にするために」というように、具体的な地域貢献ストーリーを提示することが重要です。
③ サステナビリティを事業の中核に据えること
これまではサステナビリティはCSR活動や事業の一機能として扱われてきました。しかし今後は、「この企業の存在理由は地域課題を解決すること」と明確に示す必要があります。
排出削減などの抽象的表現ではなく、例えば「山形県の森林を守る」「高齢者福祉施設を支える」といった具体的活動を打ち出すことで、学生たちが東北に留まり、企業を選ぶ理由になります。
東北は日本の未来を映す“課題先進地域”
私たちが暮らす東北は、人口減少や高齢化など、日本がこれから直面する課題が既に顕在化している地域です。
東北で課題解決ができれば、それは日本全体の未来のヒントになるはずです。
東北芸術工科大学も、多くの企業や自治体と協働し、高齢者福祉や自治体の持続可能性など、さまざまな問題解決に挑んでいます。これらの取り組みは、やがて韓国や中国などアジア圏でも役立つ先行事例になるでしょう。
今回の調査と分析結果を通じて、東北の学生たちは決して消極的なのではなく、「地域の持続可能性を本気で考えている世代」であることが見えてきました。
彼らが夢や希望を抱けるよう、企業や地域社会も本気で変わる必要があると感じています。
本調査で改めて見えてきた“具体性”の重要さ
東北芸術工科大学
イノベーション&コミュニケーション研究所所長 兼 デザイン工学部 教授 関 良樹 氏:
「地方に残ってほしい」「学生にもっと地元企業を知ってほしい」。地方創生や産学連携の議論では、いつもこの言葉が聞かれます。しかし、そのために何をすればいいのか。今回の調査結果は、改めて“具体性”の重要さを示しました。
山形県内では、卒業後に約6割の学生が県外に出ていきます。一方で学生たちは、「地元に貢献したい」という強い思いも抱えています。このギャップはなぜ生まれるのでしょうか。
企業側は学生に対して、「地域のために」「社会課題のために」と抽象的なアピールをすることが多くあります。
しかし、今回の調査からは、学生が求めているのは“その企業自身が何をしているのか”という具体的なメッセージであることが見えてきました。
例えばSDGsにしても、理念や社会貢献という言葉だけでは届きにくいのです。「自社はこういう目標を掲げ、こういうアクションをしている」そんな直接的で自分ごと化された発信が、学生の共感を呼ぶ鍵となります。
また、学生側にも課題があり、「何かしたい」と思っていても、具体的にどんな行動を起こせばいいかが見えていないのです。
今後、大学としては、学生が社会や地域に対して実際に一歩を踏み出せるようなアクティベーションの機会を作っていく必要があります。それは単なる授業やワークショップではなく、地域課題や企業活動に自分の行動をリンクさせる体験です。
企業にとってもヒントは明確です。
「自社の活動を、もっと具体的に、もっと直接的に伝える」。理念だけでなく、取り組みの中身と“そこに自分が関わったら何ができるか”まで提示することで、学生とのマッチングの精度は高まるはずです。
最後に、今回の調査結果は、地方と若者をつなぐヒントをくれました。抽象から具体へ。理念から行動へ。学生たちは、地域で何かを始めるためのきっかけを探しています。それを提供できるかどうかが、これからの大学や地域企業の役割になるのではないでしょうか。
(写真左から)
ADKマーケティング・ソリューションズ
EXデザイン本部 BXデザイン局 サステナビリティ・ソリューショングループ プランニング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
有泉 昌
ADKマーケティング・ソリューションズ
マーケティングインテリジェンス本部 プランニング・ディレクター
中野 忠夫
東北芸術工科大学
イノベーション&コミュニケーション研究所副所長 兼 デザイン工学部 教授
緑川 岳志
東北芸術工科大学
イノベーション&コミュニケーション研究所所長 兼 デザイン工学部 教授
関 良樹
<東北芸術工科大学 イノベーション&コミュニケーション研究所>
東北芸術工科大学 イノベーション&コミュニケーション研究所(IC Lab.)は、アントレプレナーを育成し、東北の未来像を分析・研究・発信する機関です。本学は2024年の創立30周年を機に、「チェンジメーカーを社会に送り出し、大学と地域社会の持続的成長を実現する」というビジョンを掲げました。IC Lab.は、このビジョンを実現するため、東北の持続可能性を高める事業創出と、それを担う人材育成に取り組んでいます。
・IC Lab. ウェブサイトhttps://www.tuad-icl.jp/
<株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ>
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズは、クライアントの課題発見からアイデア開発、実行まで統合的なソリューションサービスを提供しています。
「顧客データ&インサイト」「顧客体験デザイン」「顧客接点マネジメント」の3つの領域で課題を解決できることに強みに持ち、マス広告やデジタル広告、マーケティング領域においてもデータストラテジストやクリエイターが協働し、クライアントビジネスの成長に貢献します。また、アニメなどのコンテンツビジネスで得た実績と知見を活かして、ファンを生み出し、絆を深め、ファンと共に新たな価値を創出していく「ファングロースパートナー」になることを目指しています。
・ADK MS ウェブサイト https://www.adkms.jp/
【本件に関する問合せ先】
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
マーケティングインテリジェンス本部 中野 忠夫 e-mail:tnakano@adk.jp
EXデザイン本部 BXデザイン局 サステナビリティ・ソリューショングループ 有泉 昌/e-mail:Sus_Sol_prj@adk.jp
株式会社ADKホールディングス
経営企画本部 PR・マーケティンググループ 内山 e-mail:mspr@adk.jp