コラム
【Advertising Week Asia 2025レポート】世界で戦うためのイノベーション再定義
ーオーディオテクニカが取り組むブランドと市場の再設計ー
2026.01.30
左から)ADK MS BXD本部長・執行役員 三橋/オーディオテクニカ 専務取締役 成原氏/ADK MS BXD本部ビジネスイノベーション局長山口
Advertising Week Asia 2025(2025/12/2開催)にて、創業60年を超える株式会社オーディオテクニカ(以下、「オーディオテクニカ」)と、その変革に伴走した株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ(以下、「ADK MS」)が登壇しました。
「世界で戦うためのイノベーション再定義」と題し、オーディオテクニカの革新技術が生んだフローティングターンテーブル“Hotaru”の開発秘話と、企業の垣根を超えた共創プロジェクトの全貌を語りました。
150万円の挑戦的プロダクト「Hotaru」
ステージ上でベールを脱いだのは、開発に約2年半を費やしたという新製品「Hotaru」の実機でした。
ADK MS・三橋(以下、三橋): 本日は「イノベーション」をテーマに、オーディオテクニカ様とADKがご支援させていただき開発した新しい商品、その実機をお持ちしました 。
ADK MS・山口(以下、山口): この商品は「Hotaru(ホタル)」という名前のターンテーブルです。開発には当社が初期段階から参画し、成原専務をはじめ、商品開発部、エンジニアといった様々な方々と共に作り上げたプロダクトになります 。 価格は驚きの150万円。オーディオテクニカ様の中でもかなり挑戦的でアグレッシブな商品です 。

実機が披露されると、ターンテーブルが淡い紫や青など20色以上の光を放ちながら変化する様子が実演されました。
山口: 狙いとしては、新しい顧客を獲得するために「マーケットをデザインする」ことを意識しました。単に良い音を追求するだけでなく、光の変化による空間的な演出を含めた体験重視のプロダクトです 。
三橋 :「単に音が良い」という従来の価値基準だけではない、ということですね 。
世界ローンチの舞台に選んだ「ミラノデザインウィーク」

photo Takumi Ota
この異例の製品を世界にどう届けるか。その戦略として選ばれたのは、オーディオ機器の展示会ではなく、イタリアで開催される世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」でした 。
オーディオテクニカ・成原氏(以下、成原氏):当社は創業63年目を迎える音響メーカーですが、現在は海外にビジネス領域が広がっており、いかに海外市場へマーケットインしていくかに日々悪戦苦闘しています 。今回の「Hotaru」は世界戦略商品であり、新しいマーケットを切り拓くという大きなテーマがありました。 どこでローンチするか議論を重ねた結果、従来のような「オーディオショウ」ではなく、「デザイン」をテーマに関心を呼ぶ場所、つまり「ミラノデザインウィーク」での発表に至りました。ニュース性やPRへの波及効果を狙い、ADKさんとも知恵を絞りました 。
山口: 150万円で限定1,000台という商品は、従来のプロモーションの考え方、ロット数では採算が合いにくい側面があります 。しかし、コーポレートブランドを高めるという経営的な要素を両輪で回すためには、ミラノが最適だと考えました 。 ミラノデザインウィーク(フォーリサローネ)には、ハイブランドだけでなく、ITメーカーや日本の車メーカーなども出展しています。単なるプロモーションではなく、顧客と世界観を作り上げる「価値共創」の場だからです 。
成原氏: 会場には50人ほどのキャパシティしかありませんでしたが、連日行列ができご不便をおかけするほどの盛り上がりでした 。
山口: 現地でカウントしたところ、当初の想定2,000人を大幅に超える、トータル1万3,000人(5日間)の方に来場いただきました 。さらに、本製品はローンチ直後のタイミングで「A’ Design Award」のオーディオ部門最高賞を受賞しています 。
成原氏: ニュースを聞いた時は、机からずっこけるぐらい驚きました。「本当か?」と(笑)。しかし、非常に光栄な評価をいただいたと感じています 。
開発背景とパートナーとしてのADK
なぜ、堅実なものづくり企業が、これほど大胆な変革を求めたのか。成原氏は、その背景に2019年頃の「業績の踊り場」と、その後のコロナ禍による環境変化への危機感があったと語ります 。 
成原氏: 2019年当時、業績が少し停滞し、国内と海外の比率も半々程度という状況でした。社長から営業とマーケティングの統括を命じられ、海外戦略の見直しやEC立ち上げなどの改革に着手し、少し良くなってきたタイミングでコロナ禍が訪れました 。 コロナ禍による需要の変化でビジネス自体は伸びましたが、一方で生活様式は激変しました。「従来通りの開発や企画では難しい」と痛感し、開発の視点に「イノベーション」を盛り込む必要があると考えました 。 しかし、社内のリソースや事情の中だけで進めると、どうしても変革をドライブする力が弱まってしまう。そこで外部のパートナーを探し、ADKさんとの出会いに至りました 。
山口: 成原さんからは当初、「海外を強化したい」という話に加え、「成長戦略」という言葉が頻繁に出ていました 。既存事業の資産を活用しながら新しいマーケットを作る、いわゆる「両利きの経営」的な視点をお持ちだと感じました。 そこで、オリエンテーションのない状態から半年間、何度も対話を重ねました 。成原さんからは「それは違うんじゃないの」「もっとこんなことできないの」と厳しいフィードバックもいただきながら、関係性を構築していきました 。
成原氏: 広告会社さんがものづくりをできるか分からない中で、私の勝手なリクエストに対して粘り強く食らいついてくれた。その「粘り」を強く感じ、最終的に一緒にやっていこうと決めました 。
山口: 私が一つコミットしたのは、「単なるプロジェクトで終わらせず、スター人材を作ります」ということでした 。ここから計画が一気に加速しました。
難題を可能性創造に変えていく

プロジェクトは決して平坦な道のりではありませんでした。「Hotaru」には、技術的にも常識外れの仕様が盛り込まれていたからです。
成原氏: この製品、実は磁力(マグネット)で浮いているんです 。しかし、マグネットは音に大きな影響を及ぼすため、技術的には非常に難しい。エンジニアからは「無謀じゃないか」という声も上がりました 。 さらに、ターンテーブルの中にスピーカーを内蔵するという難題や、当社にはなかったLEDによるライティング技術の導入など、新しい技術への挑戦が山積みでした 。
三橋: 社内のエンジニアの方々を説得し、巻き込んでいくのは大変だったのではないでしょうか 。
山口: 正直、当初は現場にネガティブな空気感が漂っていました。「水平を保つべきターンテーブルを磁石で浮かせるなんて、不安定さを増幅させるだけだ。そんなことをする意味があるのか?」という、ある種の禅問答のような状況でした 。 しかし、そこで諦めるのではなく、一人ひとりと丁寧に対話し、なぜこのチャレンジが必要なのか、その「成功要因」を見つけていく作業に骨を折りました。抽象的なビジョンと具体的な課題を行き来しながら、態度変容を促していきました 。

成原氏: 最後は「リスクはあるが背負ってやるしかない」という覚悟です 。 重要なのは「何をしたいのか」という目的と、それが会社にとってどういう良いストーリーをもたらすのかを描くこと。苦労の先にある目指すべき姿を説いて回りました 。
「主従」を超えたパートナーシップという広告会社と企業の新しい関係性
本プロジェクトを通じて、両者の関係やオーディオテクニカの組織そのものにも変化が生まれたと語ります。

山口: 広告会社は従来、「主従の従」であることが美学とされる側面もありましたが、変革のためにはそこを乗り越える必要があります 。 今回は「スター人材」であるPMの村上さんと徹底的に向き合い、時には強い意思を持って議論を交わしました。そうした「組織を動かす」という領域まで踏み込んだことで、社内ムーブメントの一役を担えたと自負しています 。
成原氏: 私は主従関係や並列かといった形式にはあまり興味がなく、プロジェクトを前に進めるために最適なポジショニングを取る、という一点に集中していました。 結果として、行動の起点が「製品」から「マーケット視点・顧客視点」へと変化しました。未経験なことにチャレンジし、それを成し遂げることで自信がつき、組織全体にポジティブなスパイラルが生まれる。この「人材開発」や「組織のスキルアップ」こそが、会社にとっての大きな変化だと考えています。
三橋: 最後に、これからの広告業界のあり方についてまとめさせていただきます。 昨今、生成AIの台頭により業務が代替されると言われていますが、このプロジェクトを通じて感じたのは、広告会社本来の強みである「誰もやったことのないことへの挑戦」の重要性です。 データや論理だけでは、この「Hotaru」のような製品は生まれなかったでしょう。AIには分からない身体的な感覚、「これを見た時に人はどう感じるか」という「センスメイキング」と、飛躍した仮説を立てる「アブダクション(仮説形成)」。これらを行き来しながら新しい「意味」を作っていくこと、つまり意味のイノベーションこそが、今後我々が発揮すべき価値なのではないでしょうか 。
成原氏: まさにこれから世の中に普及していく段階ですので、引き続きよろしくお願いいたします。
■プロフィール
株式会社オーディオテクニカ 専務取締役 成原 公太郎様

2011年に株式会社オーディオテクニカへ入社した後、国内外のマーケティングやブランド戦略、流通チャネル拡大に従事し、新規ブランド立ち上げやグローバル展開を主導してきた。2025年より専務取締役に就任し、マーケティング本部を統括するゼネラルマネージャーとして商品開発から市場投入・販売・サービスまでを一貫して戦略化し、オーディオテクニカのブランド価値向上と収益基盤強化に大きく貢献している。
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
BXD本部 ビジネスイノベーション局 山口 大道

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
執行役員 三橋 良介

【本件に関するお問い合わせ】
ADKマーケティング・ソリューションズ
ビジネスイノベーション局 児玉/川西 e-mail:info@adk-bi.jp
ADKホールディングス
経営企画本部 PR・マーケティンググループ 根岸/大沢 e-mail:mspr@adk.jp


