コラム

慶應義塾大学 星野崇宏研究会×ADK:いいね、の先にある『ファン熱量』を捉える

~産学連携で実現するアニメIPマーケティング研究~

広告・マーケティング領域に留まらず、顧客体験を通じてファンを創造しクライアント企業のビジネス成果に貢献する「ファングロースパートナー」を目指している当社。今回、IPマーケティング領域における“ファン”をより多角的に捉えるため、慶應義塾大学 星野崇宏研究会との共同研究を実施しました。

左前から)慶應義塾大学 榎本さん、慶應義塾大学 星野教授、ADK MS DX局 田口氏、鬼丸氏、中野氏

産学連携が切り拓くIPマーケティングの新境地

アニメをはじめとするIP(知的財産)を対象としたマーケティング活動は、現場担当者の経験値や感性に頼ることが多いのが現状です。IPのライフサイクルは短くなり、ファンの関心も素早く移り変わる現代においては、主観的な判断だけでIPの持続的な成長を描くことには限界があります。そのため、マーケティングの課題と統計科学※¹を融合し、データに基づいた客観的な戦略を立てることの重要性がますます高まっています。ADKマーケティング・ソリューションズ(以下「ADK MS」)DX推進局のリサーチディレクター・鬼丸翔平氏(以下「鬼丸」)と、データサイエンス分野の第一人者である慶應義塾大学の星野崇宏教授(以下「星野教授」)。2人の出会いをきっかけに、その融合への第一歩として“ADK×星野研究会”の共同研究プロジェクトが始まりました。
マーケティング活動を行う上で、現場が抱える悩みや課題を、実務に直結する学術的な研究テーマへと体系化した鬼丸と同局の田口の取組が、マーケティングの課題を統計科学で解決する実践的な歩みにつながっています。

星野研究会の研究テーマ領域

星野教授:経済学部の研究会なのですが、私自身の研究テーマは統計科学や機械学習などのデータサイエンス、行動経済学、応用としてマーケティングやファイナンスなど多岐に渡ります。博士11名、修士11名、学部ゼミ生41名が所属する大所帯で、企業との共同研究の経験も豊富です。今回、ADK MSが所有するデータに関心を持ち、同社が事業として重要と位置付けているIPビジネスでのマーケティング施策の効果測定と、その改善というテーマにて、共同で研究を行ないました。
慶應義塾大学 榎本氏(以下「榎本氏」):私自身、消費者行動に元々興味があり、消費者の行動が表れやすいSNSのデータと私の趣味であるアニメ(IP)を掛け合わせた研究ができるとわかり、プロジェクトに参加しました。これまでも、データサイエンスを独学で勉強していたのですが、企業が持つデータを用いて研究する機会は滅多にないことなので、とてもワクワクしていました。

 SNSの断片的な指標を超えて:『ファン熱量』の定義と可視化

DX推進局 田口(以下「田口」):以前、社内スタッフからSNSとIPの関係について話を聞く中で、「IPの鮮度をどう保つか」という課題が挙がりました。その中の一つにIPの鮮度をいかに保つか」という声がありました。例えば、IPコンテンツのコミック雑誌での連載やテレビでのアニメの放映・配信中であれば人々の間で話題になりますが、終了すれば人々の記憶から薄れていきます。しかし、現代ではSNS上で発信された情報に対して、ファンを始めとする人々が“いいね”や“リポスト”などを行うことが、そのIPの鮮度の保持に一役買っているようです。

「熱量」を一次元化する

星野教授:IPに対するファンの「熱量」の推移は、IPビジネスに携わる方々の間で常に語られるテーマです。しかし、ここで課題となるのが「熱量」の定義の難しさです。例えば、公式Xアカウントのフォロワー数、投稿への「いいね」数、あるいはInstagramやTikTokの各種指標など、重視すべき要素は一様ではありません。指標が多岐に渡るため、SNS投稿との関連性を個別に検証する作業は困難を極めます。そうなると、やはり熱量という一次元で、各IPが持つパワーを比較し、それについて議論したくなるわけです。では、確立された測定方法がない「熱量」をいかに定義し、数値化すべきか。榎本さん調べによると、意外にも過去に学術的な定義や数値化が行われた前例がないことがわかりました。

榎本氏: 今回の研究では、因子分析を用いて6つのSNS指標(いいね!など)に共通する潜在因子の抽出を試みました。従来は、分野ごとに目的変数となるSNSの指標が異なる点に課題がありました。各指標は個別の特徴を持ちつつも、その背後には共通する変動成分が存在すると考え、その成分を「熱量」としました。今回の研究では、「熱量モデル」(図1)を基に、実際の投稿データからIP名称の検索量を最大化するための最適な投稿タイミングや投稿パターンを導出しました。ただ、特定のIPの投稿データに依存しているので、今回の結果が他のIPにも適用できるかという外的妥当性に関しては検討の余地があります。また、IPの特性によって最適な投稿戦略が変わる可能性もあるので、その点は今後の研究課題の一つと捉えています。

Ad-stockモデルの応用:『瞬間』から『累積』する熱量へ

SNS上で情報が発信された瞬間の反応だけを追っていては、長期的なファンとの関係性は見えてきません。そこで、広告効果の残存性を表す「Ad-stock(アドストック)」の概念をSNS分析に転用するという革新的なアプローチを取りました。

榎本氏:投稿日だけの「瞬間的な熱量」では、投稿がない日の熱量はゼロになってしまいます。しかし、熱量は即座に消えるものではありません。そこで、投稿がない日の熱量に着目し、導入したのが「Ad-stock」でした。投稿がフォロワーの関心を蓄積し、(投稿を)停止すれば徐々に関心が減衰するー。このモデルによって、SNSにおける累積的な熱量の時間的変化を捉えられると考えました。

実務への実装:データサイエンスが変えるコミュニケーション戦略

星野教授:御社の貴重なデータと榎本さんの努力の結果として定義されたファン熱量は、実務家やファンの観点からも妥当な数値となっていました。今後、例えば「ファン熱量がグッズの売上に関連する」ことなどを検証できれば、さらに実務的な意義が高まります。また、ファン熱量の背後にあると考えられる様々な要因を追加して分析を試みると、複数の次元が得られるかもしれません。各次元の熱量を高めるためのマーケティング施策がそれぞれ異なるものになるという、可能性も考えられます。分析対象とするIPの数を増やし、グッズなど商品の売上データや、今回活用できなかった他のSNS指標データなども取り入れられたら、学術的にも実務的にもさらなる貢献が期待できる研究になるでしょう。また、海外でも日本のIPコンテンツは人気が高いため、海外市場でも同様の研究ができたら面白いですね。

田口:ファン熱量の高まりに合わせて、公式サイトやイベントなど複数の接点での露出に連動させることで、効果的な導線を設計できるのではないか、と考えています。今回の研究でのアプローチを参考に、SNS以外での接点でも「熱量」に類似した単一の指標を開発できれば、その指標によって各接点を評価し、コミュニケーション戦略全体の貢献度を捉えやすくなるかもしれません。ただ、かなりチャレンジングな取り組みになるとは思いますが…。

今回の研究を通じて

星野教授:IPコンテンツはいまや我が国にとって不可欠な“資源であり、IPマーケティングは、今後ますます重要となるでしょう。購買履歴データを用いたデータマーケティングでは、「データサイエンス」が連想されやすいですが、IPマーケティングにおいても、データサイエンスの知見は十分活かせます。職人芸ではなく、科学的エビデンスに基づく再現可能なマーケティング=マーケティング・サイエンス、となることをご理解いただけると嬉しいです。

榎本氏:企業の持つ、実データを使うことができて意義のある研究となりました。学部生の頃から学会での発表の機会に恵まれ、そこで多くの研究者や実業家の方々から多角的な視点でのフィードバックをいただき、それを自身の研究に活かしています。興味のある分野の研究に取り組むことが、結果的に自分の成長を促していると思います。IPに関心があり、データサイエンスに触れたい学生にとって、星野研究会は最適な環境です。そこに身を置いていることで、自分自身の成長を実感すると思っています。

田口: IPマーケティングは、感性が重視される世界と思われがちですが、今回の共同研究を通じてデータサイエンスの知見に基づく戦略設計の重要性を、実感いたしました。どのようなデータの処理や、分析手法を適用すれば仮説を検証できるのかー。それを考える過程は意外とクリエイティブだな、と思います。星野先生の丁寧なご指導によって、榎本さんがデータサイエンスの世界に魅力を感じ、研究活動に励まれるようになれば、喜ばしい限りです。

※1 観察や実験で得られた膨大なデータから、その背後にある規則性や法則を導き出し、未知の現象を推測・予測する学問。現代のデータサイエンスやAIの根幹をなす理論であり、ビジネスから医療、自然科学まで幅広く活用されている

当社は、今回実現した「ファン熱量」をはじめとするSNS領域の研究を通じて、データサイエンスに基づいた“ファングロース戦略”を推進しています。
今後も産学連携を通じて、マーケティング・サイエンス領域に知見を深め、データの向こう側にあるファンの心理を科学的に捉え、クライアント企業のビジネスに貢献してまいります。

🔳田口 仁
ADKマーケティング・ソリューションズ  DX推進局 R&D推進グループ兼企画グループ
メーカー勤務を経て1999年アサツー ディ・ケイ(当時)入社。主に研究開発部門に所属。産学連携を通じて、ブランディング手法、消費者調査、コミュニケーション効果予測モデルや各種マーケティングデータの分析手法の企画開発に従事。日本広告学会会員。日本消費者行動研究学会会員。


🔳星野 崇宏様
慶應義塾大学 経済学部教授・大学院経済学研究科委員長
ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院客員研究員、ロンドンスクールオブエコノミクス客員教授などを歴任。行動経済学会第8代会長、日本マーケティング・サイエンス学会理事、日本行動計量学会理事

🔳榎本 怜奈様
慶應義塾大学 経済学部4年生(共同研究当時3年生)
消費者心理に関心があり、研究室で学ぶ統計の知識を磨きながら、将来的にはデジタル広告をはじめとしたマーケティング領域で活かしていけたらと考えています。

【本件に関する問合せ先】

株式会社 ADKマーケティング・ソリューションズ
DX推進局  鬼丸/田口/中野
株式会社 ADKホールディングス
経営企画本部 広告局 PR・マーケティンググループ 根岸 e-mail:mspr@adk.jp

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