コラム
俳優・石川瑠華さんインタビュー
あなたとちいさな話がしたいんです 略して…ちい話!
2025.07.09
大事なことって、ちいさなことに詰まっている(気がする)。広告されない ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』編集部がゲストをお招きし、その方が大事にしているちいさな物事について伺っていこう!そして、『ちい告』の肥やしにしていこう!というインタビュー企画です。
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今回のゲストはこの方! 「きらきら眼鏡」(‘18年)でスクリーンデビュー。 その後、『うみべの女の子』など数々の作品で主演、『猿楽町で会いましょう』でヒロインを務め、第31回日本映画批評家大賞新人女優賞(小森和子賞)を受賞。 近年の主な出演作に映画『市子』・『三日月とネコ』、ドラマ『バントマン』(東海テレビ)・「TRUE COLORS」(NHK)など。主演映画「水の中で深呼吸」が7月25日より全国公開予定。今後も複数の作品への出演が控えている。 Instagram: @___rukaishikawa/ X: @ishikawaruka322 |
編集部:第5回のゲストは、俳優の石川瑠華さんです。石川さんには以前、個人制作の作品にご出演いただいたご縁があり、今回インタビューさせていただけることになりました。よろしくお願いします!
石川さん:片岡さんの以前の作品と『ちい告』には、同じルーツを感じます。気張らず身近な感じ。
ものづくりとして向き合えた、広告の仕事。
編集部:今年、ご出演されていた大塚製薬「ボディメンテ」のCMがとても印象的でした。映画やドラマのお仕事と広告のお仕事では、演じる感覚は違いますか?
石川さん:『ボディメンテ』のCMは、関係者の方々にも褒めていただくことが多くて、自分も好きなCMだったので嬉しいです。
私はインディーズ映画の現場が多いこともあり、CMに対しては漠然と「お金」というイメージがありました。インディーズの現場は、仕事と好きな事の境目があまりない感じがする一方で、CMは仕事として割り切ってやるものなのかなと。
でも、今回のCMのディレクターさんやプロデューサーさんとご一緒したことで、考えがガラッと変わりました。いいものを撮るために何度も話すし、何度も撮る。その創作に対する熱量に触れて、やっぱり私は何か作るのが好きだなと再確認しました。CMが好きとか、映画が好きというより、私は作ることが好きだから。現場によって自分のスタンスを変える必要はないなと気づくことができました。
広告には商品を告知するという大事な目的があるから、分かりやすく表現しなくてはいけないという先入観もあったけど、恵まれた現場を経ると、そんな先入観はどうでもよくなったというか、そんなことより「この人たちと、いいものを作りたい」と思えた、幸せな出会いでした。
編集部:『猿楽町で会いましょう』や『うみべの女の子』など、石川さんは難しい役柄にチャレンジされることも多いと思うのですが、仕事を引き受ける基準があったりするのでしょうか?
石川さん:役次第かもしれないです。感覚も大いにあって、「この役は私がやりたい」「自分がやらなきゃ」みたいな使命感を感じることもあります。カメレオン俳優タイプではないので、自分と全然違う人を演じるよりは、過去の自分に近い子のほうが演じたいと思ったりします。これまでの役柄も、ほとんどがそうです。半分くらいは自分に似た部分があるかも。
編集部:石川さんの作品を見ると「もう、その人にしか見えない!」という感動があります。役柄を演じているというより、染み込んでいる感じがすると言いますか…
石川さん:嬉しいです、ありがとうございます。でも実は、昔はそう言われるのが少し嫌でした。例えば以前、「『猿楽町で会いましょう』のユカと一緒やん!」と言われたことがあったのですが、「私はちゃんと演じているのに」と思ってしまって…。当時は、役者としての承認欲求が強かったのかもしれません。でも今は、違うような気がします。役になりたくてなりたくて仕方ない。逆に自分が出てくるのが嫌だと思うようになりました。
(C)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会
お芝居で取り戻した、本当のこと。
編集部:昔から役者の仕事に興味があったのでしょうか?
石川さん:全然!小さいときは、両親の機嫌をとるばかりの子どもでした。「教師になる」と言ったら両親が喜んでくれたので、大学までずっと教師を目指していました。でも、本当のことを言わなくなってから、本当のことがわからなくなってしまって。自分は何がしたいのか、何を思っているのか、自分でも掴めない状態。それで大学に入ったら、周りから「中身ないね」とか言われるようになってしまい半年くらい引きこもりました。でも、それが悔しくて。「女優さんになれば、有名になれば、周りも何も言わなくなるはずだ」と思い、演技のワークショップに参加したんです。そしたら、めちゃくちゃ怒られて。最終評価で、私だけE評価でした。今までどんな成績でもEなんて取ったことなくて、学校ではいつもAを目指していたから、なんか逆にホッとした部分もありました。その後、ワークショップを主催していた事務所が「今は全然ダメだけど、お芝居を続けてほしいから」と事務所に入れてくれました。
編集部:E評価でホッとしたというのは、どういった心境だったのでしょうか?
石川さん:まだできると思えた、というか。それと、「本当のことを言っていいんだよ」という場を与えてくれた講師の方がいて。今でも恩師だと思っているのですが、その人がちゃんとEをつけてくれたのが嬉しかったんです。
編集部:石川さんが今後挑戦してみたいことはありますか?
石川さん:紙も文章も好きだから、絵本を作ったり、自主出版で本を作ろうとしています。でも紙や製本って高いので、気軽に手に取ってもらうためにはインターネットに迎合しないといけないのかなとも思って。紙が好きというのは変わらないけど、まずは一回ネットで書いてみたり、YouTubeをやってみるのもいいのかなとか、考えたりしています。
編集部:石川さんの文章、ぜひ読んでみたいです!
わからないことを、考える。
編集部:石川さんが大事にしているちいさな視点やツボについて伺いたいです。
石川さん:むずかしい…!大事にしているのは「わからないこと」かも。「わからない」と感じること。
実は、5年くらい学童保育を手伝っていて。自分にとって子どもと関わる時間は、なくてはならない時間なのですが、私は怒るのが苦手で…。ある時、子どもたちが私が出ているCMの真似をしてイジってきたんですね。私は全く怒りの感情とか湧かなかったんですけど、他の大人の方がその子を叱っていて。おそらく人が真剣に取り組んでいることを笑ってはいけないということだったのだと思うのですが。何が正しいのかわからないなと思ったんです。子どもたちが喧嘩している時も、たぶん怒らなきゃいけないんだろうけど、何を怒るべきなんだっけ?みたいな。でも、その「わからなさ」って忘れちゃいけない気がするから、書き留めて「わからない日記」をつけています。
別の話なのですが先日、おじいさんが道で倒れているところに遭遇しまして。救急車を呼ぼうとしたら、おじいさんは「呼ばないで」って言うんです。「大丈夫、大丈夫。迷惑をかけたくない。」って。おじいさんの気持ちも無視できないし、どちらが正しい行動かわからなくなってしまって。結局すぐ通りかかった人が救急車を呼んでくれたんですけど、あの時どうすれば良かったのかなぁと。
編集部:「わからない日記」を書き始めようと思ったきっかけは?
石川さん:祖母が認知症になってしまったことが大きかったです。祖母は、私にとって世界でいちばん心も外見も綺麗な人で、そんな祖母が急に施設で暮らすようになって。認知症で日々生かされるがままの祖母を見て、その状態のこととか、どうして生きてるのかとか、わからなくなってしまって。でも私は、会いに行き続けて、考え続けようと思っていて。
わからないことを考えることは、私にとって自分を感じられる瞬間だから。日々見たもの、でも忘れてしまいそうなことを書いているとき、本当に生きた心地がするというか。大事な時間です。
編集部:7/25に主演映画『水の中で深呼吸』が公開されます。どんな映画でしょうか?
石川さん:この作品には、高校生や若い世代が抱えている「自分は何者なのか」みたいな感情を肯定したいという監督の想いがあって。私は、LGBTQ+で言うとQuestioning、自分の性を定めていない子を演じました。私が高校生の頃、恋愛感情かどうかわからなかったけど、女の子にドキドキすることがあって。周りの目を気にして、その感情をなかったことにしてしまった後悔がありました。もし当時の私が、その感情が肯定される世界を見ていたら、もっと自分に正直に行動できたんじゃないかなと。この映画を見て、悩んでいる人の心が少しでも軽くなることがあればいいなと願っています。
編集部:『ちい告』について、感想をいただけますと幸いです。
石川さん:フリーペーパーが好きで、よく電車で読むんですけど、これも電車で読みやすいですね!今って情報過多じゃないですか。『ちい告』のように手のひらに残るものは、記憶に残る気がします。しかも色んな紙とシールがあって、かわいいです!
編集部:今日は、石川さんのものづくりや心への深い向き合い方に触れることができて、とてもいい時間でした。貴重なお話を本当にありがとうございました!
★第1回「ちい話」市川晴華さん(CHOCOLATE Inc.)インタビューはこちら: 前篇 / 後篇
★第2回「ちい話」松本壮史さんインタビューはこちら
★第3回「ちい話」『二坪喫茶アベコーヒー』店主・阿部まりこさんインタビューはこちら
★第4回「ちい話」クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー 東畑 幸多さんインタビューはこちら
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広告されない、ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』。時が経てば忘れてしまう「クスッ。」や「キュン!」を手のひらサイズにギュギュッとつめこんだフリーペーパーです。(ADKグループから不定期発行。次号も準備中です!)
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イラスト:コマツタスク