コラム

市川晴華さん(CHOCOLATE Inc.)インタビュー【前篇】

あなたとちいさな話がしたいんです 略して…ちい話!


大事なことって、ちいさなことに詰まっている(気がする)。広告されない ちいさなモノゴトマガジンちい告編集部がゲストをお招きし、ちいさくて大事な大事な話を伺っていこう!そして、ちい告の肥やしにしていこう!というインタビュー企画です。


今回のゲストはこの方!

市川晴華さん

1990年生まれ。CHOCOLATEにプランナー/クリエイティブディレクターとして所属。(読売広告社にもパートナースタッフとして所属)サントリーペプシ「本田とじゃんけん」「クールポコ」、イエローハット/ピザハット/リンガーハット「ハット首脳会談」、アロンアルフア「時間が余るCM」「ウルフアロン」、アース製薬「片手でモンダミン」、日の出屋製菓産業「しろえび紀行がとまらない」など。

🎧ゲストのお人柄が、より伝わる音声ver.も公開中!

編集部:第1回のゲストを引き受けていただき、とてもうれしいです!

市川さん:こちらこそです。ちい告が大好きです。思っていたけど、この話、一回もしたことないなっていう話ばかりで。『エリア別!会話どう拾えばいいん解』(ちい告第7)が好きなんですけど、上司のつぶやきに誰が返事をするのかっていう。あれは、みんなずっと思っているじゃないですか!なのに、誰も言ったことがない。「こんなこと思っていいんだ!この感情って自分だけじゃないんだ!」と思えて、本当に大好きです。

編集部:ありがとうございます。市川さんは、もしかして「ちい告」と感覚が近い人なのかなと、勝手に思っていまして。一緒にちいさな話をしたいと思った次第です。そして今日(インタビュー当日)は、810日ということで。810日と言えば、市川晴華さんかなと…。

市川さん:そんなことはないのですが()810日の仕事を毎年やらせてもらっています。

編集部:「ハット首脳会談」ですよね。

市川さん:そうですね。毎年810日に、ハットの社名が付く3社の社長にお集まりいただいて、ハットの意味を確認するという企画です。会議室に集まって「うちのハットは帽子です」「うちのハットは小屋です」「うちのハットも小屋です」というのを確認し合って、最後は「ハットの意味が違っても仲間ですよね」というようなフレームになっております。


イエローハット、ピザハット、リンガーハットの3社の社長が集まって、ハットの意味を確認し合う8月10日恒例の企画「ハット会談」。今年、ハトのマークの引越センターの社長も加わりました。

編集部:しろえび紀行の広告も好きです。「地元の人は、お土産品を食べちゃいけないの?」という違和感に気づかれているのが、いいなと思っていて。勝手ながら、市川さんは小さい気づきを大切して企画をされているのかなと思っているのですが、実際どうでしょうか?

市川さん:そうですね。まさにそういった感じでございまして。素直に思ったことを企画するというのを、いつもやっています。しろえび紀行のオリエンをいただいたとき、「地元の富山でCMを流します」と聞いて。「でも、地元の人って食べる機会がないのでは?」と思ったんですよ。そこから、だんだんと自分の実体験を思い出していきました。
しろえび紀行って本当においしくて、やみつきになる。会社のお土産として、何度も買ったことがあるのですが、毎回新幹線の中で半分食べちゃう。そのくらい、おいしいんですよ。でも、地元の人は「おいしいんだよなぁ」と思って買って行っても、食べられない。持っていた先の人が優しかった場合にだけ、一緒に食べられる。この、お土産と地元の人の微妙な関係性が、面白いなと思いまして。

富山土産の定番、しろえび紀行の広告。「しろえび紀行はお土産だから食べちゃダメだけど、つい食べたくなってしまう」というやり取りが、大変ほほえましいCMです。

素直な感想を守るための、オリエンシートの開き方。

市川さん:私は、実体験や、オリエンを受けての最初の感想をめっちゃ大事にしてます。むしろ、「これ、クライアントさんに言えないよね」くらいの超素直な感想。「これ、売れなくない?」とか、「これって、どういう人が飲むんだっけ?」とか。そういうことすら、ぜんぶ大事にしたらいいかもと思っています。

広告って、基本的には見たくないじゃないですか。そこで、あんまり嘘をつかないようにしたいなというのは、すごく思います。バレると思うから。作り手の人の素直な感情が乗っていると、「あ、なんかこの広告は嘘ついてないな」という感じがする。そういう広告なら、ちょっと好きになれるかもと思って、そうしています。
最初の感想を逃さないようにするために、オリエンシートは、正座して精神が整った状態じゃないと見ないと決めています。あ、「正座して」というのは比喩表現なんですけど。

編集部:笑!

市川さん:オリエンのデータが来たからといって、ペッペッペッと適当に見ないようにしていて。マジで、最初の感情を忘れたくない。なので、ちゃんと最初の感想をメモできる状態にしてからじゃないと、オリエンデータは開かないようにしているんです。2回目にオリエンシートを見ると、もう一般消費者の気持ちになれない。なんかプランナーになってしまう感じがします。

編集部:すごくいい話…。最初の感想をメモする以外でも、ふだんの小さい発見を見逃さないようにするために心掛けているネタのストック方法はありますか? 

市川さん:普通ですけど、SNSとか、街にあるものを見て、写真を撮る。それを友達何人かに送って、そのフィードバックを受けることで忘れないようにしています。「これが面白いと感じるのは、一人じゃない」というのを、確認したいんだと思います。ちい告と出会った時の感想に近いですね。「こんなこと思うのは、一人じゃないんだ」みたいなことを共有することで、より忘れられなくなる。そういう価値観の合う人とのやり取りは、自分の中に強烈なインプットができる感じがすごくありますし、仕事でのチームもそうしたいと思っています。

「私には今、仕掛けたいトラップがあります。」

市川さん:実は今、仕掛けたいトラップがありまして…。
slackって、スタンプがあるじゃないですか。CHOCOLATE内で、トップ10に入るくらい流通しているスタンプに「大感謝」というのがあるんですけど。

編集部:「大感謝」がたくさん押されているなんて、素敵な会社ですね!

市川さん:たぶん、みんな何も考えずに押していると思うんですよ。私は、それに対して批評性のあるイタズラをしたいと思っていて。「大感謝」にそっくりな「犬感謝」というスタンプを作って、間違えさせたいなと思っています。犬に感謝。犬はかわいいし、与えてくれるものも大きいから。

CHOCOLATEで流通しているSlackスタンプ「大感謝」と、市川さんが準備しているトラップ「犬感謝」。

編集部:小さなことへのこだわりって、特に仕事の場では、わかってもらえないことも多々あると思うのですが、うまく伝えるために工夫していることはありますか?

市川さん:まずは、すごくつまらない話ですけど、「こういう切り口にした方が伸びます」みたいな参考資料をちゃんと作ります。私のやっている企画は、一見ネタ的に見えやすいので、クライアントさんに納得してもらえるようなロジックを固めていくようにしています。
わかってもらえなかった経験は、本当にたくさんありますね。私の場合は、わかってもらえることのほうが少ないかもしれません笑

以前、とある案件で猫が入ったグラフィックを作ったんですね。そのグラフィックに、猫の鳴き声を書くことになったのですが…私、猫の鳴き声はニャーじゃないと思っていて。ニャーって、言ってないと思う。「なー」だと思うんです。
企画の段階では、仮でニャーと書いたんですけど、企画が決まってデザインの段階になってから、試しに「なー」に変更して出し直してみたら、「待ってこれ、『なー』って書いてある…!」とクライアントさんに気づかれて。「なー」について説明したのですが、やはり伝わらず…。お付き合いの長いクライアントさんだったので、笑い合いながら修正に至りました。まあ、そうだよなぁと思いつつも、でも、やっぱりニャーじゃないとは思っています。絶対に。

🐱市川さんが絶対に譲れない企画のルールとは?後篇へつづきます!

『ちい告』とは。
広告されない、ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』。時が経てば忘れてしまう「クスッ。」や「キュン!」を手のひらサイズにギュギュッとつめこんだフリーペーパーです。(ADKグループから不定期発行。次号も準備中です!)

【共同編集長】
片岡良子(CHERRY)・川瀬真由(ADKマーケティング・ソリューションズ) 
【デザイン】大橋謙譲 (CHERRY)

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