コラム
母らしくしないのは、明日も母でいたいから。
ちいさいきみと –ちいきみ– 【第4話】
2025.05.01
子どもが生まれた、コピーライター10年目。ちいさいきみと見ている景色を言葉と絵にして。
育児同志に、「ホッ」を。仕事仲間に、「へぇ!」を。あなたの励みになれたら嬉しい、
フリーペーパー『ちい告』のスピンオフ企画です。
母親。その言葉から、どんな姿を思い浮かべるだろう。
「お母さんはいいの」そう言いながら、自分のことは二の次にして。家族の誰より先に起き、なんだか忙しなく家の中を動き回っている。私が持っていたのは、そんなイメージ。
だから、母親になれるのか不安だった。社会人になって数年。好きな時間まで働いて、気ままに外食するのが当たり前になって。何時に帰ったって怒られることもなく、動画を見ながら寝落ちする。そうやって、自分で稼いだお金を、自分のためだけに使う。そんな私が・・・?
出産しても尚、その懸念は拭えなかった。だけど、赤ちゃんと家の中にいる日々が続くほど、「母親以前」の欲がむくむくと湧いてくる。新しい服を着て、都心を意味なく歩き回りたい。地元のスタバじゃなくて、表参道のスタバに行きたいし。結婚式の二次会とかで見る、クラッカーの上に何かのペーストと何かの粉がかかっている一口で食べ終わっちゃう何かが食べたい。想像していた「母親」は絶対抱かないであろう、欲求の数々。それを押さえつける日々のなかで、こんな話をラジオで耳にした。
「赤ちゃんは、ひとりでは幸せになれない」
赤ちゃんは幸せになるにも、誰かの力が必要で。だからこそ、お世話をする人も満たされるべきである。だって、その大人がダメになったら、赤ちゃんだって幸せになれないからーーというようなお話。
そうか。母親だからって、すべてを諦める必要なんてないんだ。自分の欲に正直になって全然いい。私が健やかでいることは、赤ちゃんを幸せにすることにもなるんだから。心から、そう思えた。
明日も、母親でいるために。いつの間にか作り上げていた「母らしさ」に振り回されるのは、やめることにした。そして、広告制作の端くれにいる者として。これからお母さんになる人が、もっと自由に生きられるように。赤ちゃんと同じくらい自分を大事にする母親像を、広告の中でも描いていきたい。そう、こっそりと思っている。
『ちい告』とは。
広告されない、ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』。
時が経てば忘れてしまう「クスッ。」や「キュン!」を手のひらサイズにギュギュッとつめこんだフリーペーパーです。
(ADKグループから不定期発行。昨年末に発行した第9号は書店やギャラリー、カフェなどに加え、ADKでも配布中。)
【共同編集長】片岡良子(CHERRY)・川瀬真由(ADKマーケティング・ソリューションズ)
【デザイン】大橋謙譲 (CHERRY)
イラスト:大塚 文香