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行動につなげる。未来につながっていく。
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2020年。世界的なパンデミックという非常事態を通して、人々の心には「不特定多数が密集する場所へ出かけること」のリスクが強く植え付けられました。イベントは自粛を求められ、エンタメも「不要不急」とされてしまいました。 しかし、ステイホームの環境でも人々はエンタメを渇望し、その飢えに対してテクノロジーを活用したソリューションが促進した1年でもありました。
新型コロナウイルスの拡大が業界に与えた影響を実際の数値で見てみると、国内では対前年約8割減。グローバル的な見通しは市場回復まで2~3年と言われています。 ・ぴあ総研「2020年ライブ・エンタテイメント市場規模の試算値」 ・NRIパブリックマネジメントレビュー2020年7月号 ・PwC Global Entertainment & Media Outlook 2020-2024
エンタメ領域に前倒しで訪れたデジタル化の波は2020年にどのような変化をもたらしたのか。これから見えるトンネルの先の世界を想像するべく、2020年のイベントの発展形態を振り返ってみました。コロナ前の世界、人々は「非日常の体験」を通して没入、熱狂、興奮、共感・・・思い思いの感動を求めてリアルな空間に足を運んでいたのですが、今回はその空間の作り方を主に「人」の状態と「場」の状態の二軸で、イベントの発展形態の整理を試みました。
従来のイベントの観劇、観戦を「集団」且つ「リアル」で体験する機会とすると、まずは縦軸の人の状態を工夫し、感染対策強化や人数制限、更には個別空間化が施されるようになりました。ここにはチケットと参加者の健康管理が一体となったテクノロジーサービスが生まれ、コンタクトレスな顧客情報の集約・管理が促進されました。 ・フランス パリの水上映画館
次に見られた発展はリアルからオンラインへの「場」移行です。ステイホームの環境下でもライブが楽しめる「Streaming+」や「PIA LIVE STREAM」といったチケッティングの会社を中心にサービスが立ち上がり、普段リアルでは体験することができなかった層へ届けることが可能となりました。緊急事態宣言が緩和されるとオンとオフのハイブリッド型の興行が多く見られるようになり、リアルでの収益減をオンライン配信やグッズ販売等複合サービスの提供で改善させる試みが出始めました。 ・「オンデマンド有料ストリーミングライブ」プロジェクト <LIVING on demand>
さらにオンライン参加体験に慣れてくると、リアルなモノを「オンライン上で見る」だけでは、物足りなくなってきました。繋がりの物足りなさやコンテンツそのものの物足りなさが感じられ、そこが次の工夫の対象となりました。
「個」で体験しながらもやはりイベントの醍醐味であった「共感」や参加者同士、またアーティストや演者との「一体感」を求めて、オンライン開催を主軸に「人」の繋がりを拡充した展開が見られるようになりました。そのことにより「個」はより「集団」の意識が強まり、オンラインでも「場」を共有しているかのようなコミュニティが形成されるようになりました。LINEやInstagramといった別プラットフォームを同時に活用した展開や、従来リアルで楽しんでいた「脱出ゲーム」や「自転車レース」等は単にオンライン化するだけでなく、オンラインならではの楽しみ方が生まれていきました。本来の楽しみからコンテンツ自体も進化し、オンライン実施を前提としたインタラクティブ性の高いコンテンツや画面を通じて驚きのある脚本、舞台作りが今後も生まれると予想されます。 ・リアル脱出ゲーム「人狼村からの脱出リモートver.」 ・バーチャル ツール・ド・フランス
またスポーツの分野では、リアルに試合が再開される中、無観客や入場制限が余儀なくされ、観戦スタイルやコミュニティ形成も新しい形へと進化していきました。全米オープンテニスでは会場のスクリーンに自宅で観戦しているファンの映像が映し出される等、欧州サッカーやNBAでも「リアルな場(スタジアム・アリーナ)」における演出的な集団観戦の見せ方、声援の届け方等、従来のリアルイベント型の補完が進行。選手にとっては観客が実際にいるかのように、また観客は放映や配信上に映る自分を含めたサポーターを見ることで、集団観戦を楽しむ。スポーツには欠かせない「応援」という参加方法、演出的工夫がみられるようになりました。 ・NBA、無観客試合でMicrosoft Teamsのトゥギャザーモード採用(出典ITmedia News 2020年07月25日)
「リアル」試合にオンライン観戦者を寄せていく一方で、オンライン上に「場(スタジアム・アリーナ)」を新設し、新しい空間でアバターとして集まり、応援する試みも見られました。これはファンミーティング等でも活用され、xRや通信の技術進化により今後も大いに発展の可能性が見込まれます。 ・バーチャルハマスタ(出典:日経XTREND「第3の観戦スタイル DeNAのバーチャルハマスタに観客3万人」2020年08月25日)
上記の試みでもあったように従来型イベントの「リアルな場」から対極していると思われた「バーチャル空間」が2020年はよりリアルに進化していきました。ゲームの世界で存在していた空間が「人」が集まる「場」として現実味を帯び、ゲームプレイではなくコミュニケーションを楽しむ場、さらには音楽ライブや展示会等のイベント参加の場として捉えられるようになりました。従来イベントがオンライン/バーチャル化を進める中でゲームの世界がリアル化を推進。結果、両者が近しいところにお互いを認知するようになってきました。 ・米津玄師×フォートナイト (出典:Yahoo!ニュース「米津玄師とフォートナイトのコラボから空想する未来の「ライブ」の姿」2020年8月10日)
これからはリアルかデジタルか、ということではなく、「リアル(physical)」と「デジタル(virtual)」が同居する両軸のイベント事業の在り方・シームレスな体験が今後のスポーツ&エンタメビジネスの主流となっていくと考えられます。
テクノロジーを活用して、これまで届けられなかった層へリーチする。 自分の見たいところが見られる・聞きたい音が聞ける・同じ空間にいるような演出等、よりリアルに近い体験価値の実現。 さらには今までにない新しい「空間(場)」でのパラレルな「個」としての体験世界。 個を使い分け、リアルとバーチャルの世界を生きる。何とも忙しい毎日になりそうだ。
(株)ADKマーケティング・ソリューションズ エンタテインメント&スポーツ事業開発本部
シニア・プロデューサー 飯島 みゆき 新卒でADKに入社。約10年営業を経験後、現部署に異動。海外権利のスポーツコンテンツやIPコンテンツの興行プロデュース、企画運営を担当。 プライベートではバトントワーリングの国際的な審査資格を有し、世界選手権大会での審査経験を持つ。