APPROACH
行動につなげる。未来につながっていく。
企業情報
初めまして、ADKの社内クリエイティブ・ブティック「ADK Wonder Records(AWR)」の磯部と申します。 私たちAWRは、作詞・作曲家であり、ADKでクリエイティブ・ディレクターを務める市川喜康を中心に、グラフィックやプロモーションなどそれぞれの領域で強みをもつメンバーと、音のプロフェッショナルたちが協働し、“サウンド”を核としたコミュニケーションを日々創り出しています。
この回ではプロの音楽家を擁するブティックらしく、コロナ禍で起きた音楽にまつわる現象をコミュニケーションの視点から考えてみたいと思います。
コロナに関する情報が今以上に不明確だった2020年2月、あるライブハウス内において来場者の感染が確認され、音楽業界には早々に暗い影が落ちました。誹謗中傷を含めた様々な情報が飛び交い、数多くのライブが中止せざるをえない状況になったのはご存じの通りかと思います。
ライブ・エンタテイメント業界は、政府からのイベント中止・延期・規模縮小の自粛要請を受け、多くの事業者が「自主的判断」のもと音楽コンサートや舞台公演等の開催中止ないし延期措置を講じた結果、2月以降3月末までの中止・延期公演数は1,550公演、損害額推計で約450億円にのぼると報告。 出典:「新型コロナウイルスからライブ・エンタテイメントを守る超党派議員の会を開催、中止・延期公演数は1,550公演 損害額は450億円に」/音楽業界総合情報サイト「Musicman」/2020年3月18日
一方で、コロナによる活動制限や変化は、音楽ビジネスに転換の兆しをもたらしました。以下、特徴的な2点について前編と後編それぞれで取り上げてみたいと思います。
最も大きな変化だったのが、「オンライン配信」が大規模な形で実現・普及したことではないでしょうか。会場という「空間」により限定されていたライブが「空間」に縛られなくなった結果、物理的にも精神的にもライブに対する間口が広がったと考えられます。
まず物理的には、座席数の上限がなくなったことでより多くの人が参加できるようになりました。突出した例ではありますが、6月に敢行されたサザンオールスターズの無観客ライブは18万人が視聴権を購入し、売上は単純計算で6億円以上になります。日本で一番大きなライブ会場とされる日産スタジアムの収容人数が約7万2,000人なので、オンライン配信だからこそ実現できた数であったといえます。 違う側面では、ライブが開催されない地方の方や小さなお子様がいる家庭など、どうしても現地での参加が難しい方が多くいることを考えると、物理的な障害を越えてライブを楽しめる手段が登場したのは歓迎すべきことです。 精神的な側面においても、ライブがより一層身近なものになりました。従来の現地型ライブでは人気アーティストであればあるほど当然チケットの倍率も高く、ファンクラブ加入が前提となる公演も多くありました。公言されていなくても、「熱量の高いファンでないと行ってはいけない」ように感じるハードルがあったように思います。 しかしオンライン配信の実現により、「ちょっと気になる」というくらいの関心であっても、気兼ねなくライブに参加できるようになりました。アーティストへの熱量が高まるきっかけとして、この新しい距離感の楽しみ方が登場したことはミュージシャンとファンの双方にとって喜ばしいことだと思われます。
一方で解決していかなければならない要素もあります。
ある配信関係者の話によると、オンライン配信のチケットは直前まで売れ行きが不透明だそうです。物理的な制約がないため「ぎりぎりまで調整できる」ことが裏目に出ているのかもしれません。例えば、ライブチケット購入者はグッズが送料無料など、ある程度事前に配信チケットの売れ行きの見込みが立つようなビジネスモデルの構築が今後必要になっていくでしょう。 また、オンライン配信は「公演ごと」の変化がつけにくく、複数回の公演が難しいという側面があります。運営側の事情では、1回きりの公演は採算性の面で非常に効率が悪いということもあり、公演の価値を最大限に高める(=1回あたりの価格を高くする)か、複数回参加したくなるような演出方法を考える必要があります。ここについては、コール&レスポンスやペンライトなどリアルな場でしかできなかった非再現性の高い体験を5Gのような技術を活用して提供していくことが鍵になりそうです。 最後に、アーティスト側の気持ちとして、やはり音楽を中心とした場である以上、配信や視聴者の視聴環境によって音のクオリティにばらつきがでてしまうことも懸念ではあります。
以上を踏まえると、オンライン配信のメリットを多くの人が享受した今、かつてのライブの形態に完全に戻ることはないでしょう。リアルな場での再開催と並行して、オンライン配信をいかに魅力的なものにしてビジネスを構築できるかがこれからの音楽エンターテインメントにおける当面の課題になりそうです。
後編では、もう一つの変化である「コミュニケーションツールとしての音楽」について述べたいと思います。
ADK Wonder Records
磯部 美月 新卒で大手日用品メーカーに入社後、ブランド・コミュニケーションの知見を広げるべく広告業界へ転身。2020年よりADK Wonder Recordsに加入。 ■ADK Wonder Recordsについて 「Music is Our Way」を掲げ広告コミュニケーションをつくる、ADKクリエィティブ・ワン社内のブティック。作詞・作曲家でもある市川喜康を中心に、グラフィックやプロモーションなどそれぞれの領域で強みをもつメンバーが音のプロフェッショナルたちと協働し、“サウンド”を核としたソリューションを提供します。 https://awr.tokyo/ 執筆に際して、ADK Wonder Records市川喜康、増子達郎が監修しました。