生活者の目線から、さまざまなクライアントの仕事に携われることに魅力を感じ、ADKに入社しました。配属はストラテジックプランニングで、その後プロモーションの一部と合流してコミュニケーションプランニングという部署になったんです。体験をつくるという考えのもと、戦略から施策設計まで一気通貫で考えるのだと当時から教わってきました。
今でも忘れられないのが、ヘアケアの新商品を担当した経験です。ターゲットである高年代男性へのインタビューから、この商品にとって大事なのは髪の印象変化よりもその人自身の全体印象の魅力化だと気づき、それを広告にしてヒットしました。ターゲットのインサイトから商品の本質的な魅力を見出す醍醐味を知り、この仕事をずっとやっていきたいと思ったんです。
その後、上海に駐在したことも大きな経験でした。この商品は今後も中国富裕層に売れ続けるか、中国地方都市の若者にこの商品を売るためにどうすればいいかという、誰もわからないことに答えを出していくのがミッションだったんです。中国人プランナーの方との議論が非常に刺激的で、お互いの感覚や価値観、知見を掛け合わせて提案にダイナミズムが生まれることが本当におもしろかったですね。結果としてADK中国のアカウント拡大にも貢献できました。
また、本社のように大人数の人たちが関わるわけではなく、少ないコアメンバーで提案全体を詰めていかなければならなかったことも、全体を統合する視点を養ってくれたと思います。
帰国して感じたのは、日本におけるマーケティングの多様化でした。戦略においても表現や施策においても、デジタル環境の変化をとらえた時代的なコミュニケーション開発の必要性を強く感じましたね。
現在、ADKクリエイティブ・ワンのクリエイティブ本部に所属し、戦略立案を足場としたコミュニケーション・ディレクターとしてクリエイティブやアクティベーションの方々と柔軟に協業しています。私は一人で突っ走るというよりも、チームメンバーの優れた考え方やアイデアを結びつけ、磨いて統合していくことが得意なタイプだと思っています。領域を統合することによって、「正しいけどふつう」「おもしろいけど目的から外れる」といったありがちな落とし穴にはまることなく、ワクワクする新しい正解へと常に導いていきたいです。良いと思える解決策はドライブ感があるんですよね。明快でポジティブな戦略が、クリエイティブで感性も魅了し、メディアや施策で納得と期待感がどんどん高まっていくという、そんな提案を心掛けています。
近年、求められているのは全領域を俯瞰しクライアントと併走するパートナーの存在です。戦略・表現・メディアなど各領域の担当者が、バラバラに意図や成果を語っていては意味がありません。自身の足場を持ちながらも、他の領域も含めてPDCAを担えるディレクターが重要だと考えます。
右ファネルといってもCRMからファンマーケティングまで領域は多岐に渡ります。フルファネルCXクリエーションとは、フルファネルの領域すべてを網羅して行うというよりも、左右のファネルを俯瞰してどこに改善点や鉱脈があるか見極め、より良い顧客体験をつくることだと考えています。特に着目しているのが、新規層の獲得と既存客の育成の両軸を循環させる「体験ドライバー*」です。主役は企業ではなく人々となり、顧客の声が商品・サービスの購入に大きく影響するようになりました。広告だけではモノを買いにくく、また、誰かの体験が別の誰かの体験を連れてくる時代です。カギを握るのは右ファネルのユーザーの声から、その体験の魅力を言語化することではないかと思い至りました。
ファン化を加速させ、その魅力に惹かれて新規層を連れてくるコア体験を「体験ドライバー」ととらえています。広告だけでおもしろくしようとしたり、顧客体験と離れたところで注目をつくったりするのではなく、ユーザーの方々が実際に満足し喜んでいる体験を言語化していくことが重要です。それこそが、一過性の広告に留まらず、短期間で摩耗しない価値をつくりあげて育てていくことにつながりますから。つまり、フルファネルCXクリエーションとは、フルファネル視点で俯瞰して分析し体験ドライバーをクリエーションするということだと考えています。右ファネルの分析から得られた体験ドライバーを活かして、「獲得型マーケティング」の左ファネルをより良くしつつ、右ファネルの顧客体験をより一層進化させたいです。広告会社の持つクリエイティビティを、拡張できる余地はいろいろあります。まずは体験ドライバーの発見・開発を足場にしながら、もっと嬉しい顧客体験の創出につなげていくというように、可能性を広げていきたいですね。
*体験ドライバーのイメージ図